地震予知連絡会の活動報告

第237回地震予知連絡会(2022年11月25日)議事概要

 令和4年11月25日(金)、国土地理院関東地方測量部において第237回地震予知連絡会がオンライン会議併用形式にて開催された。全国の地震活動、地殻変動等のモニタリング、地殻活動の予測についての報告が行われ、その後、重点検討課題として「内陸地震の長期予測」に関する報告・議論が行われた。以下に、その概要について述べる。

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記者会見での説明映像(YouTube動画)


1.地殻活動モニタリングに関する検討

1.1 地殻活動の概況

(1)全国の地震活動

 日本とその周辺で2022年8月から10月までの3か月間に発生したM5.0以上の地震は63回であった。このうち、震度5弱以上を観測した地震は4回発生した(資料2頁・気象庁)。

(2)日本周辺における浅部超低周波地震活動

 2022年8月から10月までの間に掲載基準を満たす超低周波地震活動は検出されなかったが、観測は波形からは9月中旬~下旬に日向灘で超低周波地震活動が発生したものとみられる(資料3頁・防災科学技術研究所)。

(3)日本列島のひずみ変化

 GNSS連続観測によると、最近1年間の日本列島のひずみには、東北地方太平洋沖地震及び熊本地震の余効変動の影響が見られる。また、福島県沖の地震及び石川県能登地方の地震活動の影響が見られる(資料4頁・国土地理院)。

1.2 プレート境界の固着状態とその変化

(1)相模トラフ周辺・首都圏直下

・茨城県南部の地震(11月9日 M4.9)※期間外
 2022年11月9日17時40分に茨城県南部の深さ51kmでM4.9の地震(最大震度5強)が発生した。この地震は、発震機構が北北西-南南東方向に圧力軸を持つ逆断層型で、フィリピン海プレートと陸のプレートの境界で発生した(資料5頁・気象庁)。

(2)駿河トラフ・南海トラフ・南西諸島海溝周辺

・西南日本の深部低周波微動・短期的スロースリップ活動状況
 短期的スロースリップイベントを伴う顕著な微動活動が、四国中部から西部において9月3日から8日、紀伊半島北部において9月30日から10月5日に発生した。これ以外の主な深部低周波微動活動は、東海地方(10月14日から26日)、四国東部(8月15日から20日及び10月16日から23日)、四国中部(8月24日から30日)、豊後水道(8月11日から14日)において観測された(資料6-8頁・防災科学技術研究所)。

・紀伊半島西部・四国東部の非定常的な地殻変動
 GNSS連続観測によって、紀伊半島西部・四国東部で2019年春頃から捉えられている一連の非定常的な地殻変動は、2022年春頃からすべりが鈍化し、すでに停止していると考えられる(資料9頁・国土地理院)。

・四国中部の非定常的な地殻変動
 GNSS連続観測によって、四国中部で2019年春頃から開始した非定常的な地殻変動が引き続き捉えられた。プレート間のすべりを推定した結果、四国中部で最大30cmのすべりが推定された(資料10頁・国土地理院)。

・九州地域の非定常的な地殻変動
 GNSS連続観測によって、九州南部で2020年夏頃から捉えられている非定常的な地殻変動は、すでに停止していると考えられる(資料11頁・国土地理院)。

・大隅半島東方沖の地震(10月2日 M5.9)
 2022年10月2日00時02分に大隅半島東方沖の深さ29kmでM5.9の地震(最大震度5弱)が発生した。この地震により長周期地震動階級2を観測した。この地震は、発震機構(CMT解)が西北西-東南東方向に圧力軸を持つ逆断層型で、フィリピン海プレートと陸のプレートの境界で発生した(資料12頁・気象庁)。

1.3 その他

(1)福島県沖の地震(10月21日 M5.0)

 2022年10月21日15時19分に福島県沖の深さ29kmでM5.0の地震(最大震度5弱)が発生した。この地震は、発震機構(CMT解)が西北西-東南東方向に張力軸を持つ正断層型で、陸のプレート内で発生した(資料13頁・気象庁)。

(2)石川県能登地方の地震活動(最大規模の地震:2022年6月19日 M5.4)

 石川県能登地方では、2018年頃から地震回数が増加傾向にあり、2020年12月から地震活動が活発になり、2021年7月頃からさらに活発になっている。最近もその傾向は継続している。活動の全期間を通じて最大規模の地震は、2022年6月19日に発生したM5.4の地震(最大震度6弱)である(資料14頁・気象庁)。この地震活動の開始以降、震源域に近い能登半島のGNSS連続観測点で南南西方向に最大1cmを超える水平変動や、4cm程度の隆起などの地殻変動が観測されている(資料15-19頁・国土地理院)。これらの群発地震活動の2019年から最近までの変化を領域別に非定常ETASモデルで推定した背景活動度や地震誘発連鎖効果の累積変化とGNSSデータの変化との対応について報告した。(資料20頁・統計数理研究所)。

(3)沖縄本島北西沖の地震活動(最大規模の地震:久米島の北西約50kmの領域 3月17日・6月3日 M5.9、久米島の西約80kmの領域 9月18日 M6.0)

 沖縄本島北西沖では、2022年1月30日から地震活動が活発になり、10月31日までに震度1以上を観測する地震が77回発生した。この地震活動は、沖縄トラフの活動で陸のプレート内で発生している。 このうち、久米島の北西約50kmの領域では、3月17日及び6月3日にはM5.9の地震(いずれも最大震度2)が発生した。これらの地震の発震機構(CMT解)は、北北西-南南東方向に張力軸を持つ正断層型である。この領域では1月30日から10月31日までに震度1以上を観測する地震が69回発生した。なお、10月に入り活動は低調になった。また、久米島の西約80kmの領域では、9月18日17時09分にM6.0の地震(最大震度2)が発生した。この地震の発震機構(CMT解)は、北西-南東方向に張力軸を持つ横ずれ断層型である。この領域では9月12日から地震活動が活発になったが、9月下旬ごろから活動は落ち着いている。9月12日から9月30日までに震度1以上を観測する地震が8回発生した。なお、10月に震度1以上を観測する地震は発生していない(資料21頁・気象庁)。2022年1月下旬の地震活動の活発化以降、震源域に近い久米島のGNSS連続観測点で南東方向に1cmを超える地殻変動が観測されている(資料22頁・国土地理院)。

(4)台湾付近の地震(9月18日 M7.3)

 2022年9月18日15時44分に台湾付近の深さ3kmでM7.3の地震(日本国内で観測された最大の揺れは震度1)が発生した。この地震の発震機構(CMT解)は、北北西-南南東方向に圧力軸を持つ型である。気象庁はこの地震に対し、同日15時49分に宮古島・八重山地方に津波注意報を発表した(同日17時15分に解除)。なお、この地震による津波は観測されなかった(資料23-24頁・気象庁)。

1.4 地殻活動の予測

(1)能登半島の地殻活動の現状と今後について

 能登半島の地殻活動における現状を整理し、今後の活動を予測するための鍵について議論を行なった(資料26-27頁・京都大学防災研究所)。


2.重点検討課題「内陸地震の長期予測」の検討

 活断層の長期評価における課題、測地データを用いた内陸地震の長期予測、背景地震活動度を用いた内陸地震の長期予測と検証評価、地震発生履歴・応力変動を考慮した内陸地震発生予測に関する報告が行われ、背景地震活動の推移と摩擦構成則との関係、活断層の長期評価において断層活動の多様性を考慮する必要性、地震活動や測地データを用いた長期予測の課題等についての議論が行われた(資料29頁・コンビーナ:京都大学防災研究所・西村卓也 委員)。

◆活断層の長期評価における課題

 高分解能LiDARデータの利活用や広帯域バイブレータ震源などの新しい物理探査技術の活用によって活断層の位置・形状・活動性の解明が進展していることが報告された。一方で、活断層の長期評価では長大・複雑な構造の活断層に対して時空間スケールで多様なすべりを考慮する必要性や、伏在活断層・海域活断層に対してさらなる解析やデータの蓄積の必要性が報告された(資料31頁・東京大学地震研究所・石山達也 准教授)。

◆測地データを用いた内陸地震の長期予測

 西日本と北海道を対象に、測地(GNSS)データから地殻内地震の発生確率の試算を行い、実際の地震活動と比較して予測モデルを検証した結果が報告された。西日本では有効性が明らかになったが、北海道における試算では、発生確率の高い場所で地震がより多く起こる傾向は確かめられたものの、絶対数が過大となる問題点も明らかになった(資料32頁・京都大学防災研究所・西村卓也 准教授)。

◆背景地震活動度を用いた内陸地震の長期予測と検証評価

 直下型地震を予測するモデルとしては、時空間ETAS (HIST-ETAS) モデルから誘発項を取り除いた背景活動密度モデルが安定的な結果を与えるということが報告された。またグーテンベルク・リヒター則のb値を仮定して、発生地震結果の対数尤度を求めると、背景活動密度モデル(モデル(d): HIST-ETAS-5paモデル)がM6クラス以上の内陸地震の長期確率予測や歴史被害地震の発生場の所在の説明に最も優れていた(資料33頁・統計数理研究所・尾形良彦 名誉教授)。

◆地震発生履歴・応力変動を考慮した内陸地震発生予測

 活断層の地震発生確率は、近傍の地震活動によって変動し、周辺の大地震による応力伝播の影響を受けやすいこと、応力伝播の影響継続時間は地域の歪み速度に反比例し、日本内陸では一般的に数十年程度影響があることなどが報告された。熊本地震の例で、大森・宇津則をあてはめると、震源域での余震継続期間は短く推定される一方、熊本平野や日奈久断層未破壊区間など、断層からはずれた地域では長く推定される。一方で、応力低下に対応した地震活動静穏化が震源の南北地域で顕著であった(資料34頁・東北大学災害科学国際研究所・遠田晋次 教授)。


3.次回(第238回)重点検討課題「人工知能による地震研究の深化」の趣旨説明

 地震学分野においても人工知能の導入が国際的に急速に進められている。わが国では、ライフラインなどに設置された振動計やスマートフォンに内蔵された加速度計の地震研究への利活用が検討されはじめるなど、数千万点以上の地震観測点が誕生する「地震超ビッグデータ」時代の到来が予感されており、地震学と情報科学の専門家が参画する「情報×地震」の大型プロジェクトが複数発足している。人工知能は、定められたルールの下で明確な目的を達成する場合において、大きな威力を発揮する。地震学分野においても深層学習による地震波検測では成果を収めているが、通常の地震以外の多種多様な振動現象に対してはまだ十分ではなく、また、地震活動の時空間分布や地球内部構造のモデリングにおいては人工知能が人間の頭脳を凌駕するまでにはまったく至っていない。これは、現在の深層学習は「人間が理解可能となるように思考過程を示す」ことができず、得られたモデルの妥当性の検証やそれに基づくモデルの更新が困難であることが大きな要因である。こうした状況を踏まえ、次回は地震研究への人工知能技術の導入に関する国際的な動向、わが国における情報科学と地震学の融合プロジェクト、深層学習に基づく地震波検測手法および低周波微動検出手法の開発とその応用、様々な地震関連データへの人工知能技術の応用展開について報告し、現在の人工知能技術は地震研究をどこまで革新することができるのか、地震研究をより深化させるためには人工知能技術がどのように進歩すると良いか、地震学と情報科学の専門家の連携をより強化するためには何が必要か等について議論を行う予定である(資料35頁・コンビーナ:東京大学名誉教授・平田直 委員、共同コンビーナ:東京大学地震研究所・長尾大道 准教授)。



 

各機関からの提出議題

  地殻活動モニタリングに関する検討 提出議題一覧(PDF:219KB)