地震予知連絡会の活動報告
第247回地震予知連絡会(2025年5月20日)議事概要
令和7年5月20日(火)、国土地理院関東地方測量部において第247回地震予知連絡会がオンライン会議併用形式にて開催された。全国の地震活動、地殻変動等のモニタリングの報告が行われ、その後、重点検討課題として「日向灘で起きる地震」に関する報告・議論が行われた。以下に、その概要について述べる。
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1.第29期の地震予知連絡会の体制について
全会一致で遠田晋次委員が会長に選出された。遠田会長により、高橋浩晃委員と篠原雅尚委員が副会長に指名され、篠原雅尚委員が運営検討部会長に指名された。また、山岡耕春前会長が名誉委員へ就任された。
東京大学 酒井慎一 教授
東京大学地震研究所 青木陽介 准教授
名古屋大学 寺川寿子 教授
京都大学防災研究所 伊藤喜宏 教授
防災科学技術研究所 松澤孝紀 地震津波複合災害研究部門主任研究員
気象庁 原田智史 地震火山部地震火山技術・調査課長
気象庁気象研究所 山本剛靖 地震津波研究部長
の7名が新たに委員に就任された。(地震予知連絡会第29期委員名簿・資料1頁)
2.地殻活動モニタリングに関する検討
2.1 地殻活動の概況
(1)全国の地震活動について
日本とその周辺で2025年2月から4月までの3か月間に発生したM5.0以上の地震は29回であった。このうち日本国内で震度5弱以上を観測した地震は1回発生した。(気象庁・資料3頁)
(2)日本列島のひずみ変化
GNSS連続観測によると、最近1年間の日本列島には、能登半島を中心に令和6年能登半島地震に伴う地殻変動によるひずみが見られる。そのほか、北海道南部から東北地方にかけて、東北地方太平洋沖地震後の余効変動の影響によるひずみ、九州では2024年8月8日に発生した日向灘の地震、2025年1月13日に発生した日向灘の地震、2025年4月2日に発生した大隅半島東方沖の地震の影響によるひずみが見られる。(国土地理院・資料4-5頁)
2.2 プレート境界の固着状態とその変化
(1)南海トラフ・南西諸島海溝周辺
・西南日本の深部低周波微動・短期的スロースリップ活動状況(2025年2月~4月)
主な深部微動活動として、2月1日~4日に豊後水道、2月23日~25日に四国中部、3月25日~29日に四国東部、4月22日~25日に豊後水道での活動が検知された。4月27日からは紀伊半島南部から北部での活動が検知されている。(防災科学技術研究所・資料6頁)
・東海の非定常的な地殻変動(長期SSE)
GNSS連続観測により、東海地域で2022年初頭から南東向きの非定常的な地殻変動が見られており、渥美半島付近にすべりが推定された。2022年1月1日~2025年4月21日の期間では、すべりの最大値は15cm、モーメントマグニチュードは6.6と求まった。(国土地理院・資料7-9頁)
・紀伊半島南部の非定常な地殻変動(長期的SSE)
GNSS連続観測により、紀伊半島南部で2020年初頭から南東向きの変動が見られるが、2024年秋頃から鈍化しているように見える。2020年1月1日~2025年4月11日の期間では、すべりの最大値は9cm、モーメントマグニチュードは6.3と求まった。(国土地理院・資料10-12頁)
・四国中部の非定常的な地殻変動(長期的SSE)
GNSS連続観測により、四国中部で2019年春頃から非定常的な地殻変動が見られている。同時期に発生している紀伊水道の長期的ゆっくりすべりとあわせ、紀伊半島南部にすべりが推定された。2019年1月1日~2025年4月6日の期間では、すべりの最大値は63cm、モーメントマグニチュードは6.6と求まった。(国土地理院・資料13-15頁)
・日向灘の地震後の地殻変動
日向灘沖南部では2024年8月8日M7.1の地震の発生以降、2025年1月13日の地震までは、余効変動が減衰しながらも継続していた。2024年8月6日~9月2日では震央付近に大きなすべりが推定されているほか、繰り返し長期的ゆっくりすべりが発生している宮崎県沿岸部、種子島沖でもすべりが推定されている。その後、主に震源の海溝側と宮崎県沿岸部ですべりが継続していた。2025年1月13日の地震後は、震源を中心に同心円状にすべりが発生したほか、日向灘沿岸北部まで海岸沿いにすべりが広がった。2024年8月6日~2025年4月12日の期間では、すべりの最大値は49cm、モーメントマグニチュードは7.1であった。(国土地理院・資料16-19頁)
1.3 その他
(1)「令和6年能登半島地震」(期間中の最大規模の地震:2月24日 M4.9)
能登半島では2020年12月から地震活動が活発になっており、2023年5月5日にはM6.5の地震(最大震度6強)が発生していた。2023年12月までの活動域は、能登半島北東部の概ね30km四方の範囲であった。2024年1月1日16時10分に石川県能登地方の深さ16kmでM7.6の地震(最大震度7)が発生した後、地震活動はさらに活発になり、活動域は、能登半島及びその北東側の海域を中心とする北東-南西に延びる150km程度の範囲に広がっている。地震の発生数は増減を繰り返しながら大局的に緩やかに減少してきているが、M7.6の地震後の地震活動域の西端の石川県西方沖で、2024年11月26日にM6.6の地震(最大震度5弱)が発生し、震度1以上を観測した地震が2月は25回、3月は12回、4月は12回発生するなど活発な状態が続いている。なお、今期間中の最大規模の地震は、2月24日04時08分に石川県西方沖で発生したM4.9の地震(最大震度3)である。(気象庁・資料20-21頁)
2024年1月1日に発生した令和6年能登半島地震の長期海域余震観測を2024年1月から2025年1月まで、実施した。観測は、海底地震計(OBS)の配置により、4つの期間に分けられる(東大地震研究所・資料22頁)。OBSからのデータを用いて、観測期間ごとに震源決定を行った。解析対象は、気象庁が決定したM2以上の地震とし、OBSデータから自動検測により、P波とS波の到着時刻を読み取った。解析手法と用いた速度構造は、本震直後の解析(Shinohara et al., 2025)と同一とした。大局的には余震数が時間ともに減少しており、発生位置については本震直後の解析結果と調和的である。周囲に較べてやや深部で発生している地震活動が認められる。(東大地震研究所・資料23頁)
(2)長野県北部の地震(4月18日 M5.1)
2025年4月18日20時19分に長野県北部の深さ13kmでM5.1の地震(最大震度5弱)が発生した。この地震の発震機構は、北西-南東方向に圧力軸を持つ横ずれ断層型である。また、同日23時39分にM4.5の地震及び19日01時02分にM4.3の地震が発生し、どちらも最大震度4を観測した。18日20時19分M5.1の地震が発生する前から地震活動がみられ、18日から30日までに震度1以上を観測した地震が65回発生した。これらの地震は地殻内で発生した。(気象庁・資料24頁)
(3)大隅半島東方沖の地震(4月2日 M6.1)
2025年4月2日23時03分に大隅半島東方沖の深さ36kmでM6.1の地震(最大震度4)が発生した。この地震は、発震機構が西北西-東南東方向に圧力軸を持つ逆断層型で、フィリピン海プレートと陸のプレートの境界で発生した。この地震の震源付近では、3月29日にM4.6の地震(最大震度3)が発生している。(気象庁・資料25頁)また、この地震に伴い、串間2観測点で約0.6cm等、大隅半島周辺でわずかな地殻変動が観測された。(国土地理院・資料26頁)
(4)ミャンマーの地震の地震(3月28日 Mw7.7)
2025年3月28日15時20分(日本時間、以下同じ)にミャンマーの深さ10kmでMw7.7の地震(Mwは気象庁によるモーメントマグニチュード)が発生した。この地震の発震機構は北東-南西方向に圧力軸を持つ横ずれ断層型である。気象庁は、この地震に対して、同日15時47分に遠地地震に関する情報(津波の心配なし)を発表した。この地震により、ミャンマーで死者約3,800人、行方不明者約100人、タイで死者23人などの大きな被害が生じた(令和7年5月7日現在、国連人道問題調整事務所による)。(気象庁・資料27-28頁)
また、「だいち2号」のSAR干渉解析により、Sagaing断層に沿って南北400km以上にわたって地殻変動が見られ、変動域ではSagaing断層を挟んで最大で6m程度の変動が見られた。震源断層の南端はネピドー南方の北緯18度付近まで到達しているとみられる。(国土地理院・資料29-33頁)
3.重点検討課題「日向灘で起きる地震」についての検討
日向灘で起きる地震について、以下の報告があり議論が行われた。(コンビーナ:筑波大学・八木勇治 委員・資料35-36頁)
◆日向灘における地震活動の特徴
日向灘南部では約30年の間隔でM7級の大地震が繰り返し発生してきたが、2024年の地震により、約60年の間隔で2つのグループが30年ずれて活動していると考えられることが明らかとなった。震源域周辺のすべりに対応するひずみは、60年間隔で繰り返すM7級のプレート境界地震で概ね解消できている。 一方で、プレートの沈み込みに対しては半分程度の解消に留まっており、残りは長期的SSEや非地震性すべり、1662年日向灘地震のようなM8級の巨大地震で解消している可能性がある。(宮崎公立大学・山下 裕亮 准教授・資料37頁)
◆1662年日向灘地震の断層モデル構築と津波浸水範囲の考察
日向灘で発生した歴史記録上最大の地震とされる1662年日向灘地震について、宮崎県沿岸にて津波の痕跡調査を行い、日南市小目井でイベント砂層を確認した。歴史記録による津波の高さと地質調査による津波堆積物の分布範囲を拘束条件として、1662年日向灘地震の断層モデルを構築した。断層モデルは宮崎県沿岸における津波痕跡や津波被害も説明でき、1662年日向灘地震がM8クラスの巨大地震の可能性を示唆している。(産業技術総合研究所・伊尾木 圭衣 主任研究員・資料38頁)
◆2024年日向灘地震とその余効すべりの過程に沈み込んだ海山が与えた影響について
国土地理院のGNSS観測網(GEONET)により、2024年日向灘地震(M7.1)に伴う地殻変動と、本震後のゆっくりとした地殻変動(余効変動)が検出された。2024年日向灘地震のすべり域は1996年10月、12月の日向灘地震のすべり域とは異なることがわかった。2024年日向灘地震とその余効すべりの過程および過去の地震活動などの比較により、震源域の断層の力学特性が著しく不均質である可能性を指摘した。こうした不均質性の原因として、九州・パラオ海嶺の沈み込みの影響が示唆される。(東京大学地震研究所・伊東 優治 助教・資料39頁)
◆日向灘北部で発生する地震と南海トラフ地震との関係
日向灘北部は、宝永地震や安政南海地震においてすべりが生じた可能性があり、南海トラフの震源域に含まれると考えられる。1968年の日向灘北部の地震の震源域周辺については、シミュレーションの結果から、1707年の宝永地震以降に固着し、数百年かけて固着の剥がれが生じてきた可能性がある。その場合、日向灘北部の地震が発生して四国沖などの破壊が誘発される可能性や、東海~四国沖で地震が発生する際に日向灘北部まで破壊が及ぶ可能性がある。一方、日向灘南部までを含めたシミュレーションや九州・パラオ海嶺の沈み込みの影響の考慮については今後の課題である。(海洋研究開発機構・堀 高峰 委員・資料40頁)
4.次回(第248回)重点検討課題「地震予知・予測に関する概念の変化」についての趣旨説明
地震学は、1960年代までの震源(点)の探求から、広がりをもつ断層の解明、プレートテクトニクスの受容、破壊過程の研究、ゆっくり滑りの発見等を通して、「ゆっくり滑りを含む地震現象とは、地下の岩盤と岩盤が、広がりをもつ断層面を境に時空間的に多様性をもってずれが進展していく現象である」と言う地震像を明らかにしてきた。一方、日本地震学会の「地震に関するFAQ」には、地震予知と地震予測の違いの説明として、「地震予測とは、「地震の発生時間」「地震の発生場所」「地震の大きさ(マグニチュード)」の一部またはすべてを地震発生前に推定することであり、地震予知とは、地震予測の中でも特に確度が高く警報につながるものと地震学会では考えています(行動計画 2012 の 2-4 参照)。」とある。(https://www.zisin.jp/faq/faq02_01.html)この説明は、震源で何か孤立したイベントが発生することが地震の本質と捉える概念にもとづいたものであり、地震学が近年明らかにしてきた新たな地震像の概念にもとづいたものとは言えないのではないだろうか。
地震を孤立した点でのイベントとして捉えて予知・予測する概念から、地下で連続的に発生している固着・滑りの時空間変化の多様な振る舞いの一部として地震をとらえて、連続的な現象を把握して予測するという概念への転換をより自覚的に行うとともに、社会にもそれを理解されるようにするにはどうすればいいかを考える。そのため、気象学と地震学の進展の比較、天気予報の工夫、震源過程の把握や可視化、固着やゆっくり滑りの時空間変化の把握や可視化などについて報告を行い、時空間的に連続な気象学に対応する「地象学」と地震学の関係、天気図のような見せ方の統一を地震現象に当てはめることは可能か、新たな地震像にもとづく地震予測はどのように表現するのが適切か、などについて議論する予定である。(コンビーナ:海洋研究開発機構・堀 高峰 委員・資料41頁)
各機関からの提出議題
地殻活動モニタリングに関する検討 提出議題一覧(PDF:330KB)