地震予知連絡会の活動報告
第186回地震予知連絡会(2010年5月21日) 議事概要
平成22年5月21日(金)、国土地理院関東地方測量部において第186回地震予知連絡会が開催された。始めに人事異動等による委員の交代があり、委員の紹介が行われた。続いて、全国の地震活動、地殻変動などに関するモニタリング結果の報告が行われ、続いて重点検討課題として「プレート境界の固着とすべりのシミュレーション − モニタリングによって何が検知されると期待されるのか?」に関する報告・議論が行われた。最後に次回の重点検討課題「地震活動について」に関する趣旨説明等が行われた。以下に、その概要について述べる。
1.委員の交代について
1.1委員交代
鹿児島大学 宮町宏樹委員 が 後藤和彦委員 に
防災科学技術研究所 小原一成委員 が 青井 真委員 に
海上保安庁 仙石 新委員 が 加藤幸弘委員 に
気象庁 土井恵治委員 が 長谷川洋平委員 に 交代した。
1.2臨時委員
東京大学地震研究所 小原一成委員 が 新たに委嘱された。
1.3中日本部会長
防災科学技術研究所 小原一成委員 から 名古屋大学 山岡耕春委員 に 交代した。
2.地殻活動モニタリングに関する検討
2.1地殻活動の概要
(1)全国の地震活動について
国内で2010年2月から4月までの3ヶ月間に発生したM5以上の地震は40個であった。最大の地震は2月27日の沖縄本島近海の地震でM7.2であった(気象庁資料)。
(2)日本列島の歪み変化
GPS連続観測データによる最近1年間の日本列島の歪み図には、2010年3月14日に発生した福島県沖の地震に伴う地殻変動の影響等が見られる(国土地理院資料)。
(3)日本周辺における浅部超低周波地震活動
日向灘沖から足摺岬沖の領域で2010年1月下旬から3月下旬に活発な浅部超低周波地震活動があったことが報告された(防災科学技術研究所)。
2.2プレート境界の固着状態とその変化
(1)日本海溝・千島海溝周辺
・宮城・福島沖の海底地殻変動
宮城・福島沖の海底地殻変動が報告された。宮城沖の海底地殻変動は陸側より大きいことが示された(海上保安庁資料)。
・福島県沖の地震
2010年3月14日に福島県沖でM6.7のプレート境界地震が発生した。今回の地震の震央付近では、M6.4-6.7の地震が21-25年に1回の割合で発生しており、繰り返し地震と考えられる(気象庁資料)。この地震は2008年7月19日の福島県沖地震の余効すべり領域のくびれの部分で発生した可能性が指摘された(気象庁資料)。また今回の地震発生前に、地震活動の静穏化領域とその領域を地震活動の活発化領域がドーナッツ状に取り囲むパターンが観測された。今回の地震は静穏化領域の西縁で発生した(気象庁資料)。
(2)相模トラフ周辺・首都圏直下
・東京都東部の地震
2010年5月9日に東京都東部のフィリピン海プレート境界付近でM4.0およびM3.8の地震が発生した。この地域でM4クラスの地震が発生するのは約10年ぶりであった。
(3)南海トラフ・南西諸島海溝周辺
・東海地域の地殻変動
東海地域の水準測量結果(年周補正後)では、掛川市の水準点140-1に対し御前崎市の水準点2595の変動量はわずかな沈降であり、長期的な沈降の傾向に特段の変化は見られない(国土地理院資料)。東海地方の水平地殻変動には特段の変化は見られないが、最近のすべり欠損分布は、スロースリップ発生前の状態に完全には戻っていない(国土地理院資料)。
・西南日本の深部低周波微動・短期的スロースリップ活動状況
2010年2月から3月に、豊後水道で顕著な深部低周波微動活動が観測された。また豊後水道では1月末より断続的に活発化し、四国東部では4月に活動が観測された。3月には東海地方と紀伊半島で微動が観測された(防災科学技術研究所資料)。
・豊後水道の長期的なスロースリップ
2009年後半から四国南西部および豊後水道周辺で非定常な地殻変動が観測された(国土地理院資料)。観測された非定常変動と豊後水道南東側の深部低周波微動および足摺岬沖の浅部超低周波地震の活動とは同期している傾向があることが報告された(国土地理院資料、地震研究所小原臨時委員資料)。検出された非定常変動から、四国南西部および豊後水道で2009年後半から長期的なスロースリップが発生したことが推定された(防災科学技術研究所資料、国土地理院資料)。すべり領域は四国南西部で始まり、2010年2月頃からすべり速度が加速し、豊後水道にすべり領域が拡大し現在まで続いている(国土地理院資料)。
2.3その他の地殻活動等
(1)チリ中部沿岸の地震
2010年2月27日(日本時間)にチリ中部沿岸でMw8.8のプレート境界地震が発生した。この地震により翌日日本国内で津波が観測された(気象庁資料)。
3.重点検討課題「プレート境界の固着とすべりのシミュレーション − モニタリングによって何が検知されると期待されるのか?」の検討
本課題の目的は、太平洋プレートやフィリピン海プレートの沈み込み境界における固着とすべりに関する現状のシミュレーションの成果やその限界を理解することにより、観測モニタリングの指針を得ることである。議論の範囲は、1.様々なタイプのイベントが生じる条件、2.アスペリティ破壊の規模、再来間隔、震源過程のゆらぎをもたらす原因、3.大地震の前に生起する現象および想定される現象に対する検知能力の検証である。2部に分かれて検討が行われ、第1部では数値シミュレーション研究の成果について、第2部では大地震前の変化等の検知能力について説明があった。
第1部:釜石沖の地震を例に、固有地震的に発生するM5クラスの地震と、その地震間の後半に続発するM2〜3の地震の発生サイクルが、階層的アスペリティモデルによって再現できるという報告がなされた。また、超巨大地震のサイクルの中で一回り小さい地震が発生するような類似のケースへの階層的モデルの適用可能性についても議論された(海洋研究開発機構・堀高峰研究員資料)。東海地域の割れ残りと長期スローイベントとの関係が報告され、近年の大規模な東海スロースリップは1944年の東南海地震で東海地域が割れ残ったことに起因する可能性が示された。また、このシミュレーションでは紀伊半島沖から破壊が開始することが示され、その場合は約1ヶ月前にGPSでプレスリップが観測可能と推定された(気象庁気象研究所・弘瀬冬樹研究官資料)。南海トラフ沿いの巨大地震発生前のスローイベントの挙動の変化の報告では、大地震発生サイクルにおける長期的・短期的スロースリップイベントを数値シミュレーションで再現でき、大地震発生前には、スロースリップの発生間隔が短くなる傾向が示された。また大地震発生前に固着域とスロースリップの発生領域の間ですべりの加速が起きることが報告された(防災科学技術研究所・松澤孝紀研究員資料)。イベント間の相互作用と大地震前後の周囲の活動変化に関する報告では、小アスペリティの連鎖破壊モデルを適用することにより、超低周波地震の移動現象が再現できることが報告された。また、余効すべりが通過すると、浅い領域では繰り返し地震・浅部超低周波地震が、深い領域ではスロースリップが発生することが示された(海洋研究開発機構・有吉慶介研究員資料)。
第2部:歪計による短期的スロースリップの検知能力が報告され、短期的スロースリップの検出限界の規模がMw5前半であることが示された(気象庁気象研究所資料)。また同様な報告がGPS観測網に関してなされ、観測データのノイズレベルにもよるが、西南日本ではMw6.0前後以上、北海道・東北地方ではおよそMw6.5以上で検知が可能であることが報告された(国土地理院資料)。短期的スローイベントと微動の準リアルタイムでの検知能力の報告がされ、傾斜計によって検出される短期的スローイベントの下限はMw5.5であると示された。また短期的スロースリップを傾斜計の変化から自動検出する試みが報告され、その有効性が示された(防災科学技術研究所資料)。
4.次回(第187回)重点検討課題「地震活動について」の趣旨説明
最近、大量のデータを前にして、標準的な(正常の)地震活動を捉えるモデルの開発を促し、それらの性能を予測の観点から比較検証する国際的なプロジェクトCollaboratory for the Study of Earthquake Predictability(CSEP)が主要地震国で連携して進められている。同時にこれは、これまで提案されてきている、地震活動の様々な異常性による各種の地震予測法の有意性と確率利得を評価できる基盤を整備することにもなっている。本課題では、CSEP研究プロジェクトの日本における取組みについて紹介し、地震活動や余震活動における種々の異常現象の検出法、その有意性や大地震(大余震)の予測の確率利得を向上させる方策について議論をする。さらに、従来から報告されている地震(余震)活動の異常について、標準的な地震活動と対比することなどから定量的な議論を試みる。
(事務局:国土地理院)
各機関からの提出議題
《地殻活動モニタリング結果》
【1】気 象 庁 1.地殻活動の概況 a.地震活動 O 全国M5以上の地震と主な地震の発震機構 S 東海地域の地震活動 2.プレート境界の固着状態とその変化 a.日本海溝・千島海溝周辺 S 釧路沖の地震(4月9日M4.8) O 福島県沖の地震(3月14日M6.7) S 茨城県沖の地震(3月31日M4.6) S 鳥島近海の地震(5月3日M6.1) b.相模トラフ周辺・首都圏直下 S 東海・南関東地方の地殻変動 c.南海トラフ・南西諸島海溝周辺 S 東海地域の低周波地震活動と短期的スロースリップ S 東海・南関東地方の地殻変動 d.その他 S 北海道南西沖の地震(3月30日M5.8) O チリ中部沿岸の地震(2月27日Mw8.8) S メキシコ、バハカリフォルニア州の地震(4月5日Mw7.2) S インドネシア、スマトラ北部の地震(4月7日Mw7.7) S インドネシア、スマトラ北部の地震(5月9日Mw7.2) 3.その他の地殻活動等 S 北海道東方沖の地震(3月6日M5.5) S 秋田県内陸南部の地震(3月1日M4.9) S 福島県沖の地震(3月13日M5.5) S 宮城県沖の地震(4月26日M5.1) S 石川県能登地方の地震(2月7日M4.0) S 千葉県北西部の地震(3月16日M4.5) S 新潟県下越地方の地震(4月16日M4.6) S 松代における地殻変動連続観測 S 伊予灘の地震(2月21日M4.5) S 内陸部の地震空白域における地殻変動連続観測 S 石垣島近海の地震(2月7日M6.5) S 沖縄本島近海の地震(2月27日M7.2) S 台湾付近の地震(3月4日M6.4) S 石垣島南方沖の地震(4月26日M6.6) S 千島列島の地震(2月6日M6.1) S ウラジオストク付近の地震(2月18日M6.8) S 新潟県中越地方の地震(5月1日M4.9) S 中国、青海省の地震(4月14日Mw6.9) 【2】国土地理院 1.地殻活動の概況 b.地殻変動 O GEONETによる全国の地殻水平変動 O GEONETによる2期間の地殻水平変動ベクトルの差 O GPS連続観測データから推定した日本列島の歪み変化 O 加藤&津村(1979)解析手法による各験潮場の上下変動 2.プレート境界の固着状態とその変化 a.日本海溝・千島海溝周辺 S 北海道太平洋岸 GPS連続観測時系列 S 基線ベクトルの成分変位と速度グラフ S 2004年釧路沖の地震以降の累積の推定すべり分布 S 東北地方太平洋岸 GPS連続観測時系列 S 宮城・福島・茨城県太平洋岸 GPS連続観測時系列 S 福島県沖の地震前後の地殻変動 b.相模トラフ周辺・首都圏直下 S 関東地方の上下変動 S 館山地殻活動観測場観測結果 S 鹿野山精密辺長連続観測 S 伊東・油壷・初島・真鶴各験潮場間の月平均潮位差 S 伊豆半島および伊豆諸島の地殻水平・上下変動図 c.南海トラフ・南西諸島海溝周辺 S 東海地方各験潮場間の月平均潮位差 O 森〜掛川〜御前崎間の上下変動 O 菊川市付近の水準測量結果 S 御前崎周辺 GPS連続観測時系列 S 駿河湾周辺 GPS連続観測時系列 S 御前崎長距離水管傾斜計月平均値 S 御前崎・切山長距離水管傾斜計による傾斜変化(日変化、時間変化) S 御前崎地中地殻活動観測施設観測 O 東海地方の最近の地殻変動及び非定常地殻変動 O 豊後水道の地殻変動 O 豊後水道の地殻変動モデル O 豊後水道周辺の深部低周波微動活動と非定常な地殻変動 d.その他 3.その他の地殻活動等 S 高度地域基準点測量による稚内・名寄・函館地方の水平歪 S 富士山周辺の地殻変動 S 伊豆東部地区 GPS連続観測時系列 S 伊豆半島東部測距連続観測 S 伊豆諸島地区 GPS連続観測時系列 S 高度地域基準点測量による中部日本地方の水平歪 S 精密辺長測量 池田地区 S 沖縄本島近海の地殻変動 S 硫黄島の地殻変動 O 2010年4月14日中国青海省の地震に関する合成開口レーダー解析結果 S GEONETのF3解析戦略について(報告) S 電子基準点の受信機更新に伴う日々の座標値のオフセットについて 【3】北海道大学 議題提出無し 【4】東北大学 議題提出無し 【5】東京大学地震研究所 1.地殻活動の概況 a.地震活動 S 日光・足尾付近の地震活動(2010年2月〜2010年4月) 【6】東京工業大学 議題提出無し 【7】名古屋大学 議題提出無し 【8】京都大学防災研究所 3.その他 S 近畿地方北部の地殻変動 S 地殻活動総合観測線の観測結果 【9】九州大学 議題提出無し 【10】鹿児島大学 議題提出無し 【11】統計数理研究所 議題提出無し 【12】防災科学技術研究所 2.プレート境界の固着状態とその変化 b.相模トラフ周辺・首都圏直下 S 関東地方のGEONET観測網による地殻変動観測(2007年5月〜2010年5月) O 2010年5月9日東京都東部の地震 c.南海トラフ・南西諸島海溝周辺 S 関東・東海地域における最近の地殻傾斜変動(2010年2月〜2010年4月) S 伊豆地域・駿河湾西岸域の国土地理院と防災科研のGPS観測網による地殻変動の観測 (2008年8月〜2010年5月) O 日本周辺における浅部超低周波地震活動(2010年2月〜2010年4月)(2aを含む) O 西南日本の深部低周波微動・短期的スロースリップ活動状況(2010年2月〜2010年4月) O 豊後水道長期的SSEに伴う傾斜変動 【13】産業技術総合研究所 2.プレート境界の固着状態とその変化 c.南海トラフ・南西諸島海溝周辺 S 東海・伊豆地域における地下水等観測結果(2010年2月〜2010年4月) S 紀伊半島の地下水・歪観測結果(2010年2月〜2010年4月) 3.その他の地殻活動等 S 神奈川県西部地域の地下水位観測(2010年2月〜2010年4月) -- 神奈川県温泉地学研究所・産総研 -- S 岐阜県東部の活断層周辺における地殻活動観測結果(2010年2月〜2010年4月) S 近畿地域の地下水・歪観測結果(2010年2月〜2010年4月) S ボアホール歪計で計測された歪変動のGPS観測との比較:産総研安富観測井の例 S 鳥取県・岡山県・島根県における温泉水・地下水変化(2010年2月〜2010年4月) -- 鳥取大学工学部・産総研 -- 【14】海上保安庁 1.地殻活動の概況 b.地殻変動 S GPSによる地殻変動監視観測 2.プレート境界の固着状態とその変化 a.日本海溝・千島海溝周辺 O 宮城沖・福島沖における海底地殻変動観測結果
記載分類は以下のとおりとなっています。 1.地殻活動の概況 a.地震活動 b.地殻変動 2.プレート境界の固着状態とその変化 a.日本海溝・千島海溝周辺 b.相模トラフ周辺・首都圏直下 c.南海トラフ・南西諸島海溝周辺 d.その他 3.その他の地殻活動等 (O)口頭発表 (S)資料提出のみ
重点検討課題「プレート境界の固着とすべりのシミュレーション −モニタリングによって何が検知されると期待されるのか?」プログラム
○冒頭説明(趣旨説明者 松澤副会長)
太平洋プレートやフィリピン海プレートの沈み込み境界における固着とすべりに関する現状のシミュレーションの成果やその限界を理解することにより、観測モニタリングの指針を得る。
第1部 数値シミュレーションの現状についてのレクチャー
○アスペリティの階層構造と破壊の連動性 海洋研究開発機構 堀 高峰 ○東海地域の割れ残りと長期スローイベントとの関係 気象研究所 弘瀬 冬樹 ○南海トラフ沿いの巨大地震発生前のスローイベント挙動の変化 防災科学技術研究所 松澤 孝紀 ○様々なイベント間の相互作用と大地震前後の周囲の活動変化 海洋研究開発機構 有吉 慶介
第2部 大地震前の変化の検知能力
○歪計による短期的スロースリップの検知能力 気象庁 ○プレート境界面上のすべりの検知能力 国土地理院 ○短期的スローイベントと微動の準リアルタイムでの検知能力 防災科学技術研究所