地震予知連絡会の活動報告
第156回地震予知連絡会(2004年2月16日) 議事概要
平成16年2月16日、国土地理院関東地方測量部において第156回地震予知連絡会が開催され、全国の地震活動、全国の地殻変動などに関する観測・研究成果の報告が行われ、議論がなされた。トピックスとしては、地震発生のトリガリングについて報告および議論が行われた。以下に、その概要について述べる。
1.全国の地震活動について
最近3ヶ月間では、十勝沖地震の余震域でM6.0の地震が発生した。また、宮城県沖でM6.2の地震、父島近海でM6.4のやや深発地震、東海沖でM6.5の深発地震、久米島西方沖でM6.0の地震、台湾付近でM6.6の地震が発生した。
日本とその周辺の地震活動(2003年11月〜2004年1月、M≧5.0)(気象庁資料)
2.東海地域の地殻活動について
東海地域の水準測量結果によると、森町〜掛川〜御前崎間では御前崎側で沈降が見られる。
森〜掛川〜御前崎間の上下変動(国土地理院資料)
掛川市の水準点140-1に対する浜岡町の水準点2595の動きは、最近の2〜3年間は年周変化が小さくなっているが、変動の基本的な傾向は今までと変わらない。
水準点2595(浜岡町)の経年変化(国土地理院資料)
東海地域の異常地殻変動は依然として継続している。2003年に入ってから、平均的な変動からのずれの水平成分の変化が大きくなり、2001年のレベルに近くなっているが、季節変動的な変化も見られることから、今後とも注意深く推移を見守る必要がある。
平均的な地殻変動からのずれ(精密歴)(国土地理院資料)
東海地方の地殻変動(国土地理院資料)
推定モーメントの時間変化(国土地理院資料)
この異常地殻変動と地震活動の間にはある程度の対応関係が見られる.
東海地域のスロースリップと地震活動の相関について(気象庁資料)
3.十勝沖地震について
9月26日に発生した十勝沖地震の余震活動は順調に減衰している。余震分布は、2004年1月に入ってから、北東及び南西方向に拡散する傾向が見られ、釧路海底谷を越えて東側へ広がっているように見える。
平成15年(2003年)十勝沖地震の余震活動(気象庁資料)
地殻変動から推定された地震時及び地震後のすべり分布から、地震時に大きく滑った領域では余効変動のすべりはほとんど見られず、その周辺ですべりが生じていると考えられる。
カルマンフィルターで推定した十勝沖地震の余効滑り(暫定)(国土地理院資料)
北海道周辺の地震活動度の分析から、十勝沖地震の発生領域では、地震の発生に先行して活動度が低下していたことが明らかとなった。
(北海道大学資料)
4.地震発生のトリガリングについて
今回のトピックスでは、「トリガリング」と題して、地震発生のトリガリングについて議論を行った。(世話人:橋本委員)。
近年、地震発生などに伴う応力変化による周辺での微小地震活動度の変化について扱う静的トリガリングに関する研究や、遠距離で発生した大規模な地震により引き起こされる微小地震活動など動的トリガリングに関する研究が行われてきている。
地震発生に伴うクーロン応力の変化を計算し、微小地震活動度と比較する初期の研究から、中長期的な地震発生確率へ地震発生に伴う応力変化の影響を加味する新しい試み等が行われてきている。このクーロン応力変化と微小地震活動度の変化との関係から、微小地震活動から逆に応力を推定することにより、応力の時空間変動をモニターできる可能性があると考えられ、東海地域へ応用した例についての報告があった。
中長期地震予知への展開:東海地震震源域周辺の応力状態の推定(微小地震から応力へ逆過程)(産業技術総合研究所資料)
また、地震発生数の統計的分析から、大きな地震発生前の非地震性すべりによる応力変化により微小地震の発生が抑制されたと考えられる例などについての報告があった。
(統計数理研究所資料)
その他、兵庫県南部地震の発生後、震源域の北部で活発化した地震活動が月齢に相関して増減する例や、遠距離で発生した大規模な地震により誘発された微小地震活動についての報告があり、議論が行われた。
(事務局:国土地理院)
各機関からの提出議題
【1】気象庁(A1) 1.全国M5以上の地震と主な地震の発震機構(A1) 2.北海道地方とその周辺の地震活動 C 国後島付近(1月15日M5.1)の地震活動 C 根室半島南東沖(12月30日M5.5)の地震活動 C 十勝沖地震(2003年9月26日M8.0)の余震活動 C 十勝支庁北部の地震活動 3.東北地方とその周辺の地震活動 C 宮城県沖(2003年5月26日M7.1)の余震活動 C 宮城県北部(2003年7月26日M6.2)の余震活動 C 福島県沖(2003年10月31日M6.8)の余震活動 C 福島県沖(1月23日M5.3、1月27日M4.4)の稍深発地震活動 4.関東・中部地方の地震活動 C 茨城県沖(11月15日M5.8)の地震活動 C 千葉県東方沖(11月23日M5.1)の地震活動 C 八丈島近海(1月27日M5.0)の地震活動 C 父島近海(11月12日M6.4)の地震活動 C 新島・神津島近海(11月18日M4.4、12月31日M4.4)の群発地震活動 C 佐渡付近(12月19日M4.4、12月22日M4.7)の地震活動 C 東海地域の地震活動 C 静岡県西部(11月28日M3.3)の地震活動 C 東海道沖(11月12日M6.5)の深発地震活動 C 熊野灘(1月6日M5.4)の地震活動 C 東海地域のスロースリップと地震活動の相関について C 東海・南関東地方の地殻変動 C 長野県中部(1月11日M4.0)の地震活動 C 長野県北部の地震活動と松代における地殻変動連続観測 5.近畿・中国・四国地方の地震活動 C 播磨灘(12月13日M4.6)の地震活動 C 紀伊半島及び四国周辺地域の低周波地震活動 6.九州地方とその周辺の地震活動 C 大分県西部(12月19日M3.4)の地震活動 C 鹿児島県北西部[鹿児島県薩摩地方](11月30日M4.8)の地震活動 7.沖縄地方とその周辺の地震活動 C 東シナ海(久米島西方沖)(12月24日M6.0)の地震活動 C 台湾付近(11月12日M5.3、12月10日M6.6)の地震活動 8.期間外の地震活動 C 岩手県沖(2月4日M5.2)の地震活動 C 箱根山付近[静岡県東部](2月4日M3.3)の地震活動 【2】国土地理院(A2) 1.日本全国の地殻変動 A2 GEONETによる最近1年間の地殻水平変動 A2 GEONETによる最近3ヶ月の地殻水平変動 A2 GEONETによる2期間の地殻水平変動ベクトルの差(1年間) A2 GEONETによる2期間の地殻水平変動ベクトルの差(3ヶ月) A2 GEONETによる2期間の地殻水平変動ベクトルの差(1ヶ月) C GPS連続観測から推定した日本列島の歪変化 2.東海地方の地殻変動 A2 森〜掛川〜御前崎間の上下変動 A2 水準点(140-1、2595)の経年変化 A2 水準点2595(浜岡町)の経年変化 C 掛川〜御前崎間の各水準点の経年変化 A2 御前崎地方の上下変動 A2 水準点2602-1(菊川町)と10333(大東町)及び2601(小笠町)の経年変化 A2 水準点2602-1(菊川町)と2601(小笠町)の経年変化 A2 水準測量(10333及び2601)による傾斜ベクトル(月平均値) C 比高変化に対する近似曲線の係数変化 C 東海地方各験潮場間の月平均潮位差 A2 東海地方の非定常地殻変動 C GPS連続観測結果 駿河湾周辺 C GPS連続観測結果 駿河湾周辺(2) A2 GPS連続観測結果 掛川・御前崎周辺 C GPS連続観測による基線長・比高変化に対する近似曲線の係数変化 A2 GPS連続観測および水準測量による比高変化 C GPS連続観測結果 静岡県西部 A2 御前崎地区高精度比高連続観測 C 御前崎長距離水管傾斜計月平均(E−W) C 御前崎・切山長距離水管傾斜計日平均 C 地中地殻活動観測装置観測結果 C 切山基線精密辺長測量結果 3.伊豆地方の地殻変動 C 内浦〜土肥〜西伊豆間の上下変動 C 西伊豆〜南伊豆間の上下変動 C 南伊豆〜河津間の上下変動 C 土肥〜天城湯ヶ島間の上下変動 C 伊東・油壷・初島・真鶴各験潮場間の月平均潮位差 C 伊豆半島東部測距連続観測日平均結果 C 川奈地区精密辺長測量結果 C GPS連続観測結果 伊豆半島東部地区 C GPS連続観測結果 伊豆諸島地区 C GPS連続観測結果 伊豆諸島地区(ベクトル図) 4.関東・中部地方の地殻変動 C 布良・勝浦・油壷各験潮場間の月平均潮位差 C 水準原点〜さいたま〜野田〜船橋〜千葉間の上下変動 C 藤沢〜水準原点(甲)間の上下変動 C 鹿野山精密辺長連続観測結果 C 三鷹地区精密辺長測量結果 C GPS連続観測結果 富士山・箱根周辺 5.北海道地方の地殻変動 A2 GPS連続観測結果 北海道地方の平均的な地殻変動 A2 GPS連続観測結果 十勝沖地震後の地殻変動 A2 GPS連続観測結果 十勝沖周辺地区 A2 十勝沖地震の推定余効滑り(矢吹&松浦手法) A2 カルマンフィルターで推定した余効滑り(暫定) A2 加藤&津村(1979)の解析方法による、各験潮場の上下変動 A2 花咲・釧路・浦河・室蘭各験潮場間の月平均潮位差 A2 GPS連続観測と潮位観測による比高変化 A2 門別町〜釧路市間の上下変動 A2 清水町〜釧路市間の上下変動 A2 清水町〜池田町間の上下変動 A2 襟裳岬の上下変動 C 高度基準点による北海道北部地方の水平歪 C 高度基準点による北海道地方の水平歪 6.東北地方の地殻変動 C 大館市〜浪岡町間の上下変動 C 宇都宮市〜郡山市間の上下変動 C GPS連続観測結果 宮城県沖周辺地区 7.中部・近畿地方の地殻変動 C 中京の上下変動 C 阪神の上下変動 C 上富田町〜串本町間の上下変動 8.四国・九州地方の地殻変動 A2 安芸〜室戸〜宍喰間の上下変動 A2 室戸地方の各水準点の経年変化 A2 GPS連続観測結果 豊後水道の地殻変動(イベント前) A2 GPS連続観測結果 豊後水道の地殻変動(イベント後) A2 GPS連続観測結果 日向灘・南海周辺 A2 豊後水道ゆっくり地震の推定滑り(暫定) A2 GPS連続観測データから推定した四国地方の歪変化 C 高度基準点による四国地方の水平歪 C 熊本市〜大分市間の上下変動 C GPS連続観測データから推定した九州地方の歪変化 9.その他 C GPS連続観測結果 硫黄島 A2 測地VLBI観測(国際・国内超長基線測量) 【3】北海道大学 B 2003年十勝沖地震に先行した地震活動の静穏化と活発化 C 北海道とその周辺の地震活動 C 2003年十勝沖地震の余震活動 C 十勝支庁北部の地震活動 【4】東京大学大学院理学系研究科 C 東海地域における地球化学的観測について C 伊豆半島における地球化学的観測について C 福島県東部における地球化学的観測について 【5】東京大学地震研究所 C 伊豆半島および伊豆諸島周辺の地震活動(2003年11月〜2004年1月) C 日光・足尾付近の地震活動(2003年11月〜2004年1月) C 紀伊半島およびその周辺域の地震活動(2003年11月〜2004年1月) C 瀬戸内海西部とその周辺の地震活動(2003年11月〜2004年1月) C 富士川・駿河湾地方における地殻変動観測(その28) C 高精度弾性波計測結果(2004年1月まで) C 鳥取県西部地震震源域周辺の地震活動(2003年11月〜2004年1月) C 相良観測点における歪・傾斜観測(2003年11月〜2004年1月) 【6】東京工業大学 A4 伊豆半島における全磁力変化の最近の傾向 【7】名古屋大学 B 最近20年間の水準・潮位・GPS観測による東海地域の地殻変動と プレート間カップリング −1980−2003年− 【8】京都大学 C 昭和南海地震時の四国西部の隆起について 【9】九州大学 C 九州における最近の地震活動(2003年11月〜2004年1月) C 九州南部における最近の地震活動(2003年11月〜2004年1月) (鹿児島大) 【10】防災科学技術研究所 C 関東・東海地域における最近の地震活動(2003年11月〜2004年1月) C 関東・東海地域における最近の地殻傾斜変動(2003年11月〜2004年1月) C 伊豆半島・駿河湾西岸域の国土地理院と防災科研のGPS観測網による 地殻変動観測 (2003年2月〜2004年1月) A4 糸魚川・静岡構造線周辺の地震活動について C レーザ津波計開発の現況(続き) 【11】産業技術総合研究所 C 東海・伊豆地域における地下水等観測結果(2003年11月〜2004年1月) C 岐阜県東部の活断層周辺における地殻活動観測結果(2003年11月〜2004年1月) C 有馬?高槻?六甲断層帯近傍における地殻活動観測結果(2003年11月〜2004年1月) C 近畿地域の地下水・歪観測結果(2003年11月〜2004年1月) C 鳥取県・岡山県・島根県における温泉水・地下水変化(2003年8月〜2004年1月) B 地下水位が体積歪変化を記録している例 【12】海洋情報部 C GPSによる地殻変動監視観測 (1) 三宅島および神津島におけるGPSを利用した地殻変動監視観測 (2) DGPS局を利用した地殻変動監視観測 (3) 伊豆諸島海域のGPS移動観測結果 ・神津島島内の地殻変動 ・銭州岩礁における地殻変動 C 十勝沖の海底地形 C 福島沖の海底地質構造 【13】統計数理研究所 B 2003年十勝沖地震(M8.0)前後の北日本における地震活動の特徴について
A1〜Cの分類は以下のとおりとなっています。 (A1)この間における全国の地震活動の報告と質疑 (A2)この間における全国の地殻変動の報告と質疑 (A3)地震活動,地殻変動以外の観測結果の報告と質疑 (A4)各地域についての詳細検討 (A5)トピックス (B) 話題提供 (C) 資料提出