地震予知連絡会の活動報告
第188回地震予知連絡会(2010年11月19日) 議事概要
平成22年11月19日(金)、国土地理院関東地方測量部において第188回地震予知連絡会が開催された。全国の地震活動、地殻変動などに関するモニタリングについての報告が行われ、続いて重点検討課題として「プレート境界すべり現象に関する今後のモニタリング戦略」に関する報告・議論が行われた。最後に次回の重点検討課題「海域のモニタリング技術の動向」に関する趣旨説明等が行われた。以下に、その概要について述べる。
1.地殻活動モニタリングに関する検討
1.1地殻活動の概況
(1)全国の地震活動について
国内で2010年8月から10月までの3ヶ月間に発生したM5以上の地震は28個であった。全体的に、地震の発生数や地域分布に特に目立った点は見られなかった(気象庁資料)。
(2)日本列島の歪み変化
GPS連続観測データによる最近1年間の日本列島の歪み図からは、目立った状況の変化はなかった(国土地理院資料)。
(3)日本周辺における浅部超低周波地震活動
2010年8月下旬に十勝沖で超低周波地震活動があった。日向灘でも8月に活動があった(防災科学技術研究所資料)。
1.2プレート境界の固着状態とその変化
(1)南海トラフ・南西諸島海溝周辺
・東海地域の地殻変動
東海地域の水準測量結果では、掛川市の水準点140-1に対し御前崎市の水準点2595の変動はわずかであり、長期的な沈降の傾向に特段の変化は見られなかった(国土地理院資料)。
・西南日本の深部低周波微動・短期的スロースリップ活動状況
8月12−19日に四国西部、9月18−29日に紀伊半島中部〜南部でスロースリップが発生したことが報告された。10月11−13日に四国中部で深部低周波微動が発生したことが報告された。豊後水道における2010年1月以降の断続的な深部低周波微動活動は低調になっている(防災科学技術研究所資料)。
・豊後水道の長期的なスロースリップ
2009年後半から発生した豊後水道の長期的なスロースリップは、鈍化傾向となっているとの報告がなされた(国土地理院資料、防災科学技術研究所資料)。
・南西諸島海溝(琉球海溝)付近の海底地殻変動
海底地殻変動の観測から、沖縄本島南方沖合の海底に設置された観測点が、沖縄のGPS観測点の動きとは異なり、ユーラシアプレートに対して、北西方向に約4cm/yearの速度で移動していることが報告された(名古屋大学・琉球大学資料)。
(2)その他
・スマトラ南部の地震
2010年10月25日スマトラ南部でユーラシアプレートとインド・オーストラリアプレートの境界でMw7.7の地震が発生した。この地震によりインド洋沿岸で津波が観測されたことが報告された(気象庁資料)。
2.重点検討課題「プレート境界すべり現象に関する今後のモニタリング戦略」の検討
本課題の目的は、プレート境界で発生する多様なすべり現象について、シミュレーションで予測された特徴を含めその発生状況を的確に把握し、今後の巨大地震発生予測に資するため、プレート間すべり現象のモニタリング手法高度化に向けた検討を行うことである。これらに関して、3部に分けて検討が行われた。
◆第1部 プレート境界すべり現象モニタリング最新結果
深部低周波微動の深さ依存性について報告がなされた。小規模の微動活動は深部側に集中しており、特に紀伊・四国西部では深い側と浅い側の2列に分布して、四国東部では孤立的に活動するという特徴が紹介された(東京大学地震研究所・小原一成教授資料)。四国西部の深部低周波微動の線状構造・継続時間・移動様式・潮汐応答について報告がなされた。微動がスラブの沈み込み方向に沿って線状に分布することが示され、過去および現在のフィリピン海プレートの沈み込み方向が関与していることが紹介された(東京大学・井出哲准教授資料)。
◆第2部 プレート境界すべり現象と関連の深い地下構造に関する最新研究成果
茨城県沖のM7級地震の発生域と地殻構造調査から発見された海山の関係を調べたところ、破壊領域は海山の沈み込む前方に形成され、海山自体はアスペリティにはなっていないことが報告された(東京大学地震研究所・望月公廣准教授資料)。房総沖の相似地震は沈み込むフィリピン海プレート最上部の火山性砕屑物・火山岩(VCR)層の下面に沿って発生していることが紹介され、活動的な深部底付け作用が進行していることが示唆された(防災科学技術研究所・木村尚紀主任研究員資料)。東海地域の深部低周波微動は、高Vp/Vs比をもつマントルウェッジ先端部と海洋性地殻との境界面上に分布していることが示された。また、長期的スロースリップのすべり速度と海洋性地殻内の流体圧分布に相関があることが報告された(東京大学地震研究所・加藤愛太郎助教資料)。紀伊半島沖での電磁探査から、深部低周波微動や浅部超低周波地震の発生域は低比抵抗であることが報告された。低比抵抗は深部低周波微動発生域上部の下部地殻にも認められ、流体の存在が示唆された(京都大学・後藤忠徳准教授資料)。
◆第3部 今後のモニタリング手法高度化への取り組み
アクロスによるプレート境界状態変化の検出の試みについて報告がなされた。東海地域の深部低周波微動活動が活発だった時期に、微動の発生域を通過する波群のエネルギーの増加が認められ、微動に伴ってプレート境界面の反射係数が増加した可能性が示唆された(気象庁気象研究所・吉田康宏主任研究官資料)。歪計による短期的スロースリップの検出能力について報告が行われた。観測条件が整えば5nano-strain程度の歪変化の検出が可能であり、短期的スロースリップの検出限界の規模はMw5前半であることが示された(気象庁気象研究所・木村一洋主任研究官資料)。GPSによる短期的スロースリップの検出能力について報告が行われた。空間フィルタによるノイズ軽減処理を適用すると、スロースリップの発生を示唆する変位パターンが認められる場合があり、GEONETでも検出できる可能性が示された(国土地理院・西村卓也主任研究官資料)。傾斜データを用いた短期的スロースリップの自動検出および地震波形の相関解析による浅部超低周波地震の検出を試みた取り組みが紹介された(防災科学技術研究所・廣瀬仁主任研究員資料)。歪計と傾斜計の両方を利用した短期的スロースリップの検知能力を向上させる取り組みが紹介された。また、地震計鉛直アレイ観測による波形データにセンブランス解析を適用すると、従来のエンベロープ相関法より深部低周波微動の検知能力が10倍程度向上することが報告された(産業技術総合研究所・小泉尚嗣研究チーム長資料)。
3.次回(第189回)重点検討課題「海域のモニタリング技術の動向」の趣旨説明
現在、プレート境界では、通常の地震の他に、多様なすべり現象が発見されている。しかしながら、現象が発生している場所の直上にあたる海域におけるデータはほとんどないことから、その発生状況を正確に把握することが難しい状況となっている。そこで、今後行われるであろう予測シミュレーションをも視野に入れて、海域におけるモニタリング技術の動向の把握、およびその高度化に向けた検討を行う。議論は、1)海域における地震モニタリング観測、2)海域における地殻変動モニタリング観測、の2部に分けて行われる予定である。
(事務局:国土地理院)
各機関からの提出議題
《地殻活動モニタリング》
【1】気 象 庁 1.地殻活動の概況 a.地震活動 O 全国M5以上の地震と主な地震の発震機構 S 東海地域の地震活動 2.プレート境界の固着状態とその変化 a.日本海溝・千島海溝周辺 S 日高地方東部の地震(10月14日M5.5) S 三陸沖の地震(8月10日M6.3) S 宮城県沖の地震(9月1日M5.0) S 青森県東方沖の地震(9月13日M5.8) b.相模トラフ周辺・首都圏直下 S 千葉県北東部の地震(9月22日M4.5) S 千葉県北西部の地震(9月27日M4.5) S 東海・南関東地方の地殻変動 S 茨城県南部の地震(11月5日M4.6) c.南海トラフ・南西諸島海溝周辺 S 東海・南関東地方の地殻変動 d.その他 S バヌアツ諸島の地震(8月10日Mw7.2) O インドネシア、スマトラ南部の地震(10月25日Mw7.7) 3.その他の地殻活動等 S 日高地方南部の地震(8月14日M4.6) S 釧路沖の地震(9月4日M5.1) S 国後島付近の地震(9月28日M5.3) S 岩手・秋田県境付近の地震(7月31日〜M4.8) O 福島県中通りの地震(9月29日M5.7) S 茨城県北部の地震(8月3日M4.6) S 父島近海の地震(8月14日M5.2) O 新潟県上越地方の地震(10月3日M4.7) S 伊豆大島近海の地震活動(10月17日M3.1) S 松代における地殻変動観測 S 土佐湾の地震(10月6日M4.5) S 内陸部の地震空白域における地殻変動連続観測 S 宮古島近海の地震(10月4日M6.4) S エクアドルの地震(8月12日Mw7.1) S ニュージーランド、南島の地震(9月4日Mw7.0) S インドネシア、パプアの地震(9月30日Mw7.0) 【2】国土地理院 1.地殻活動の概況 b.地殻変動 O GEONETによる全国の地殻水平変動 O GEONETによる2期間の地殻水平変動ベクトルの差 O GPS連続観測データから推定した日本列島の歪み変化 2.プレート境界の固着状態とその変化 a.日本海溝・千島海溝周辺 S 北海道太平洋岸 GPS連続観測時系列 S 基線ベクトルの成分変位と速度グラフ S 2004年釧路沖の地震以降の累積推定すべり分布 S 仙台市〜岩沼市間の上下変動 S 東北地方太平洋岸 GPS連続観測時系列 S 宮城・福島・茨城県太平洋岸 GPS連続観測時系列 b.相模トラフ周辺・首都圏直下 S 館山地殻活動観測場観測結果 S 鹿野山精密辺長連続観測 S 伊東・油壷・初島・真鶴各験潮場間の月平均潮位差 S 伊豆半島および伊豆諸島の地殻水平・上下変動図 c.南海トラフ・南西諸島海溝周辺 S 東海地方各験潮場間の月平均潮位差 O 森〜掛川〜御前崎間の上下変動 O 菊川市付近の水準測量結果 S 東海地方の上下変動 S 御前崎周辺 GPS連続観測時系列 S 駿河湾周辺 GPS連続観測時系列 S 御前崎長距離水管傾斜計月平均 S 御前崎・切山長距離水管傾斜計による傾斜変化(日平均、時間平均) S 御前崎地中地殻活動観測装置観測結果 O 東海地方の最近の地殻変動及び非定常地殻変動 O 豊後水道の地殻変動 O 豊後水道の地殻変動モデル O 豊後水道周辺の深部低周波微動活動と非定常な地殻変動 3.その他の地殻活動等 O 福島県中通りの地震に伴う地殻変動 S 下諏訪町〜軽井沢町〜上里町間の上下変動 S 下諏訪町〜甲府市〜八王子市間の上下変動 S 下諏訪町〜飯田市〜浜松市間の上下変動 S 富士山周辺の地殻変動 S 三宅島の上下変動 S 伊豆東部地区 GPS連続観測時系列 S 伊豆諸島地区 GPS連続観測時系列 O 電子基準点「御前崎」の移行について 【3】北海道大学 議題提出無し 【4】東北大学 議題提出無し 【5】東京大学地震研究所 2.プレート境界の固着状態とその変化 b.相模トラフ周辺・首都圏直下 O 千葉県北東部の地震 3.その他の地殻活動等 O 新潟県上越市の地震 【6】東京工業大学 議題提出無し 【7】名古屋大学 2.プレート境界の固着状態とその変化 c.南海トラフ・南西諸島海溝周辺 O 駿河—南海トラフおよび琉球海溝付近における海底地殻変動 3.その他の地殻活動等 O 滑り履歴情報を取り込んだプレート沈み込み帯の地震発生サイクルシミュレーションによる余効変動の再現 【8】京都大学防災研究所 3.その他の地殻活動等 S 近畿地方北部の地殻活動 S 地殻活動総合観測線の観測結果 【9】九州大学 議題提出無し 【10】鹿児島大学 議題提出無し 【11】統計数理研究所 議題提出無し 【12】防災科学技術研究所 2.プレート境界の固着状態とその変化 a.日本海溝・千島海溝周辺 S 宮城県沖地震活動パタンの変化 b.相模トラフ周辺・首都圏直下 S 関東地方のGEONET観測網による地殻変動観測(2007年11月〜2010年11月) O 2010年9月22日,10月9日 千葉県北部の地震 c.南海トラフ・南西諸島海溝周辺 S 関東・東海地域における最近の傾斜変動 S 伊豆地域・駿河湾西岸域の国土地理院と防災科研のGPS観測網による地殻変動の観測 (2009年2月〜2010年11月) S 浜名湖下の地震活動とスロースリップ O 日本周辺における浅部超低周波地震活動(2010年8月〜2010年10月)(2aを含む) O 西南日本の深部低周波微動・短期的スロースリップ活動状況(2010年8月〜10月) O 豊後水道長期的スロースリップイベント(2009年−2010年) 3.その他の地殻活動等 S 2010年10月3日新潟県上越地方の地震 【13】産業技術総合研究所 2.プレート境界の固着状態とその変化 c.南海トラフ・南西諸島海溝周辺 S 東海・伊豆地域における地下水等観測結果(2010年8月〜2010年10月) S 紀伊半島〜四国の地下水・歪観測結果(2010年8月〜2010年10月) 3.その他の地殻活動等 S 神奈川県西部地域の地下水位観測(2010年8月〜2010年10月) -- 神奈川県温泉地学研究所・産総研 -- S 岐阜県東部の活断層周辺における地殻活動観測結果(2010年8月〜2010年10月) S 近畿地域の地下水・歪観測結果(2010年8月〜2010年10月) S 鳥取県・岡山県・島根県における温泉水・地下水変化(2010年8月〜2010年10月) -- 鳥取大学工学部・産総研 -- 【14】海上保安庁 1.地殻活動の概況 b.地殻変動 S GPSによる地殻変動監視観測 2.プレート境界の固着状態とその変化 b.相模トラフ周辺・首都圏直下 O 相模湾における海底地殻変動観測結果 3.その他の地殻活動等 S 10月25日のインドネシア付近の地震による津波について
記載分類は以下のとおりとなっています。 1.地殻活動の概況 a.地震活動 b.地殻変動 2.プレート境界の固着状態とその変化 a.日本海溝・千島海溝周辺 b.相模トラフ周辺・首都圏直下 c.南海トラフ・南西諸島海溝周辺 d.その他 3.その他の地殻活動等 (O)口頭発表 (S)資料提出のみ
重点検討課題「プレート境界すべり現象に関する今後のモニタリング戦略」プログラム
○冒頭説明(趣旨説明者 小原委員)
プレート境界で発生する多様なすべり現象について、シミュレーションで予測された特徴を含めその発生状況を的確に把握し、今後の巨大地震発生予測に資するため、プレート間すべり現象のモニタリング手法高度化に向けた検討を行う。
第1部 プレート境界すべり現象モニタリング最新結果
○深部低周波微動の深さ依存性 東京大学地震研究所 小原 一成 ○深部低周波微動の線状構造・継続時間・移動様式・潮汐応答 東京大学大学院理学系研究科 井出 哲
第2部 プレート境界すべり現象と関連の深い地下構造に関する最新研究成果
○茨城沖におけるアスペリティと地下構造 東京大学地震研究所 望月 公廣 ○房総沖SSEと底付作用 防災科学技術研究所 木村 尚紀 ○東海における長期的SSE・微動と地下構造 東京大学地震研究所 加藤 愛太郎 ○プレート境界における電磁気的地下構造探査 〜 海洋プレート沈み込み開始から低周波微動域へ 〜 京都大学 後藤 忠徳
第3部 今後のモニタリング手法高度化への取り組み
○アクロスによるプレート境界状態変化検出の試み 気象研究所 吉田 康宏 ○歪計による短期的SSEの検知能力 気象研究所 木村 一洋 ○GPSによる短期的スロースリップイベント検出の可能性 国土地理院 西村 卓也 ○モニタリング手法高度化への取り組み 防災科学技術研究所 廣瀬 仁 ○ひずみ計多点展開の効果、地震計鉛直アレイによる微動検出 産業技術総合研究所 小泉 尚嗣