地震予知連絡会の活動報告
第170回地震予知連絡会(2006年11月20日) 議事概要
平成18年11月20日、国土地理院関東地方測量部において第170回地震予知連絡会が開催され、全国の地震活動、全国の地殻変動などに関する観測・研究成果の報告が行われ、議論がなされた。トピックスとして、「沈み込み帯における非地震性すべり(2)短期的スロースリップ」について報告および議論が行われた。以下に、その概要について述べる。
1.全国の地震活動について
最近3ヶ月間は、全国的に活発であった。M6以上では、8月7日に父島近海でM6.2、10月11日に福島県沖でM6.0、10月12日に与那国島付近でM6.2、10月24日に鳥島近海でM6.8の地震が発生している。また、10月1日に千島列島でM6.8 の地震が発生した(気象庁資料)。 なお、期間外であるが、11月15日に千島列島でM7.9、11月18日に喜界島付近でM6.0の地震が発生している。
2.日本列島の歪み変化について
GPS連続観測データから推定した最新1年間の日本列島の歪み変化は北海道地方で2003年十勝沖地震、2004年釧路沖地震に関連する余効的な地殻変動の影響による歪変化がみられる。宮城県地域では、2005年8月16日の宮城県沖の地震(M7.2)による歪みが見られる。また伊豆諸島周辺の地殻活動に伴う、北東—南西方向の伸びが依然として顕著である。また、2006年1〜5月の伊豆半島東部における地震活動、2006年夏以降の箱根周辺での地殻変動の影響も見られる(国土地理院資料)。
3.東海地域の地殻変動について
東海地域の水準測量結果によると、森町〜掛川〜御前崎間では前回の観測結果と比較してほとんど変化は見られない(国土地理院資料)。掛川市の水準点140-1に対する御前崎市の水準点2595の動きは、長期的な沈下の傾向が続いている(国土地理院資料)。
東海地域の非定常地殻変動(ゆっくりすべり)は、トレンドを除いた時系列データを見ると2005年中頃からほぼ停止しているように見える。しかし、一部の観測点では隆起が継続あるいは新たに開始しているように見える(国土地理院資料)。非定常すべり分布の推定結果では、2005年中頃からはすべりがほとんど見られない(国土地理院資料)。 2006年1月以降では、2005年までの浜名湖付近のすべり領域の両隣にすべりが推定されている(国土地理院資料)。
4.千島列島の地震活動
2006年11月15日に千島列島でM7.9の地震が発生した。発震機構は北西−南東方向に圧力軸を持つ逆断層型で、北米プレートと太平洋プレートの境界付近で発生した地震と考えられる。この地震の震源付近では9月下旬から10月初旬にかけて地震活動が活発で、10月1日にはM6.8の地震が発生している(気象庁資料)。千島海溝沿いで発生する地震には、単純な本震—余震型ではなく、今回の地震の南側で発生した1991年と1995年の地震のように前震的な活動を伴う例がよく見られる(気象庁資料)。
地震波形の解析から、破壊開始点よりも浅い部分に大きなすべり量が推定されている。この地震に伴った津波が太平洋沿岸および伊豆諸島の広い範囲で観測された。津波から推定されるモーメントマグニチュードはM8.3であるが使用できるデータが少ないため過大評価である可能性も残る(北海道大学資料)。北海道の北部でこの地震に伴う地殻変動が検出された(国土地理院資料)。
5.トピックス「沈み込み帯における非地震性すべり(2)短期的スロースリップ」
地殻変動や地震活動、シミュレーション研究による短期的ゆっくりすべりについての検討結果が報告された。
愛知県から静岡県西部にかけての気象庁の歪み計で、2005年7月に歪み変化が観測された。同じような歪み変化が過去にも観測されていたことが明らかになった。検出された歪み変化は主に3つのタイプに分類できる。東海地域西部では低周波地震の活動領域が3つのクラスターに分かれるように見える(気象庁資料)。3つの歪み変化のタイプと低周波地震の活動領域との間には対応関係が見られる。3つの歪み変化のタイプに対してゆっくりすべりのすべり領域が推定された。モデルから計算された歪み場の特徴は、観測された歪み変化の特徴をほぼ満足しており、低周波地震の震央付近で発生したプレート境界上のすべりによって説明できる。1999年以降のモーメントの積算結果から、2003年から2004年前半にかけての期間に短期的ゆっくりすべりが活発化していたことが示され、2000年秋から静岡県の浜名湖付近で発生していた長期的ゆっくりすべりと厳密には時期が一致してはいないものの、両者の間に何らかの関係があることが示唆される。1984年以降、短期的ゆっくりすべりは、1987〜1989年、2003〜2004年に活発化していたことが示され長期的なゆっくりすべりは2000年秋からのイベントの他に1980〜1982年、1988〜1990年の期間にも発生していた可能性が指摘された。
短期的ゆっくりすべりはプレート境界でのすべり現象であることが示され、プレート境界の状態としては、巨大地震のアスペリティ長期的ゆっくりすべり領域、短期的ゆっくりすべり領域が棲み分けをしている可能性が指摘された(防災科学技術研究所資料)。短期的ゆっくりすべりと深部低周波微動の活動様式として、セグメントに分割されていること、セグメント内で移動が起きること、移動パターンはある程度限定されるといった観測結果が報告された(防災科学技術研究所資料)。また周期20秒の超低周波地震が深部低周波微動発生域で検出され、その震源メカニズムは低角逆断層型で深さ30〜40kmのプレート境界で発生している事が示された(防災科学技術研究所資料)。
摩擦則に基づいたゆっくりすべりのシミュレーションが行われ、ゆっくりすべりを発生させるメカニズムとして、(1)安定・不安定の遷移領域でのすべりモデル(2)速度・状態依存摩擦則にcutoff velocityを導入したモデル(3)粘弾性モデルについての考察が行われた。その結果、(1)摩擦に関するパラメータの大小によって安定すべり・不安定すべり・間欠的なゆっくりすべりが生じる事が報告された(東京大学地震研究所資料)。(2)に関しては、定常状態の摩擦が低速では速度と共に、cutoff velocityを超えると高くなる場合にも間欠的なゆっくりすべりが起こることが確認された(東京大学地震研究所資料)。(3)に関しては、ばねとダッシュポットが並列でつながっているフォークトモデルでは、すべり速度を遅くする事ができた。
その後、アスペリティと長期的・短期的ゆっくりすべり、プレート境界で発生する深部低周波地震との関係について議論が行われ、これらについての物理的理解が進んできているとの共通認識が示された。
(事務局:国土地理院)
各機関からの提出議題
【1】気象庁 (2006年8月〜2006年10月) 1.日本とその周辺 C 全国M5以上の地震と主な地震の発震機構 2.北海道地方とその周辺 C 根室支庁南部(9月30日M4.6)の地震活動 3.東北地方とその周辺 C 宮城県北部(8月17日M4.3)の地震活動 C 三陸沖〔宮城県沖〕(10月2日M5.2)の地震活動 C 福島県沖(10月11日M6.0)の地震活動 C 宮城県沖の地震活動 4.関東・中部地方とその周辺 C 東京湾(8月31日M4.8)および千葉県北西部(9月7日M4.6)の地震活動 C 千葉県東方沖(9月7日M5.1)の地震活動 C 千葉県南東沖(10月14日M5.1)の地震活動 C 伊豆大島の歪計の長期トレンドについて C 鳥島近海(10月24日M6.8)の地震活動 C 父島近海(8月7日M6.2)の地震活動 A1 東海地域の低周波地震活動と短期的スロースリップ (1)8〜9月 (2)10月 (3)11月 C 松代における地殻変動連続観測 C 東海地域の地震活動 C 東海・南関東地方の地殻変動 5.近畿・中国・四国地方とその周辺 C 伊予灘(9月26日M5.3)の地震活動 C 内陸部の地震空白域における地殻変動連続観測 6.九州地方とその周辺 C 奄美大島近海(8月13日M5.3、9月1日M5.4)の地震活動 7.沖縄地方とその周辺 C 与那国島近海(8月28日M5.3)の地震活動 C 宮古島近海(9月23日M4.4、10月26日M4.5)の地震活動 8.期間外・海外 C 十勝支庁南部(11月1日M4.8)の地震活動 C 大阪府北部(11月3日M3.7)の地震活動 C 11月 伊豆半島東方沖の地震活動 C バヌアツ付近(8月8日M6.8)の地震活動 C サハリン近海(8月18日M5.9)の地震活動 C 台湾南方沖(10月9日M6.1)の地震活動 C 北朝鮮北部での地下核実験(10月9日)と思われる震動波形について C 奄美大島近海(11月18日M6.0)の地震活動 A1 千島列島(11月15日M7.9)の地震活動 【2】国土地理院 1.日本全国の地殻変動 A2 GEONETによる最近1年間および3ヶ月の地殻水平変動 A2 GEONETによる2期間の地殻水平変動ベクトルの差(1年間、3ヶ月) A2 GPS連続観測から推定した日本列島の歪み変化 2.東海地方の地殻変動 A2 東海地方の水準測量結果Ⅰ(森〜掛川〜御前崎間) A2 東海地方の水準測量結果Ⅱ(菊川市付近) C 東海地方各験潮場間の月平均潮位差 A2 東海地方の非定常地殻変動 C GPS連続観測結果 浜名湖・伊勢湾周辺 C GPS連続観測結果 駿河湾周辺 C GPS連続観測結果 御前崎周辺 C 御前崎地区高精度比高連続観測結果 C 御前崎・切山長距離水管傾斜計観測結果 C 切山基線精密辺長測量結果 C 御前崎地中地殻活動観測装置観測結果 3.伊豆地方の地殻変動 C 伊豆半島および伊豆半島の地殻水平・上下変動 A2 GPS連続観測結果 伊豆半島東部地区 C 伊東・油壺・初島・真鶴各験潮場間の月平均潮位差 C 伊豆半島東部測距連続観測結果 C GPS連続観測結果 伊豆諸島地区 C 伊豆大島の水準測量結果 4.関東地方の地殻変動 A2 GPS連続観測結果 箱根周辺 C 布良・勝浦・油壷各験潮場間の月平均潮位差 C 館山地殻活動観測場 C 鹿野山精密辺長連続観測結果 5.北海道地方の地殻変動 C 北海道の地殻水平変動図(最近3ヶ月、1ヶ月) C GPS連続観測結果 北海道太平洋岸 A2 2004年釧路沖の地震以降の地殻変動 C 浦河地区機動観測結果 C 2006年11月15日の千島列島の地震に伴う地殻変動 6.東北地方の地殻変動 C 東北地方の地殻水平・上下変動(最近3ヶ月、1ヶ月) C GPS連続観測結果 東北地方太平洋岸 A2 2005年宮城県沖の地震以降の地殻変動 7.近畿地方の地殻変動 C 串本地区機動観測結果 8.中国地方の地殻変動 C 中国地方の水準測量結果 9.九州地方の地殻変動 C 九州地方の水準測量結果 10.その他 C 硫黄島の地殻変動 【3】北海道大学 C 北海道とその周辺の地震活動 C 2006年11月15日千島(シンシル島)沖地震 【4】東京大学大学院理学系研究科 C 東海地域における地球化学的観測について C 伊豆半島における地球化学的観測について C 福島県東部における地球化学的観測について 【5】東京大学地震研究所 C 地殻応力変化測定を目的とした精密弾性波測定結果 C 日光・足尾付近の地震活動(2006年8月〜2006年10月) C 御前崎における絶対重力変化 C 豊橋における絶対重力変化 C 紀伊半島およびその周辺域の地震活動(2006年8月〜2006年10月) C 瀬戸内海西部とその周辺の地震活動(2006年8月〜2006年10月) C 伊豆半島東方沖の地震と地殻変動 C ケーブル式海底津波波形による11月16日の地震による津波 【6】名古屋大学 C 犬山と豊橋における地殻変動観測(犬山:1968-2006、豊橋:1974-2006) C 愛知県豊田市旭と新城市鳳来における深部低周波微動のアレイ観測 【7】京都大学防災研究所 C 近畿北部の地殻活動 C 地殻活動総合観測線観測結果 【8】九州大学理学研究院 C 九州の地震活動(2006年8月〜2006年10月) 【9】鹿児島大学理学部 C 九州南部の地震活動(2006年8月〜2006年10月) 【10】防災科学技術研究所 C 関東・東海地域における最近の地震活動(2006年8月〜2006年10月) C 関東・東海地域における最近の地殻傾斜変動(2006年8月〜2006年10月) C 伊豆半島・駿河湾西岸域の国土地理院と防災科研のGPS観測網による 地殻変動観測 (2005年2月〜2006年11月) B 宮城県沖の地震活動パタン変化 B 2006年8月31日 千葉県中部の地震−相似地震解析結果− A4 西南日本の深部低周波微動及び短期的スロースリップ活動(2006年8月〜10月) A4 西南日本の超低周波地震活動 【11】産業技術総合研究所 1.東海・伊豆地域 C 東海・伊豆地域における地下水等観測結果(2006年8月〜2006年10月) C 神奈川県西部地域の地下水位観測(2006年8月〜2006年10月) −神奈川県温泉地学研究所・産総研− 2.中部・東海地域 C 岐阜県東部の活断層周辺における地殻活動観測結果(2006年8月〜2006年10月) 3.近畿地域 C 近畿地域の地下水・歪観測結果(2006年8月〜2006年10月) 4.中国・四国地域 C 鳥取県・岡山県・島根県における温泉水・地下水変化(2006年8月〜2006年10月) 鳥取大学工学部・京大防災研・産総研 C 紀伊半島南部〜四国の地下水観測結果(2006年8月〜2006年10月) 【12】海洋情報部 C 海底基準点における海底地殻変動観測結果 C GPSによる地殻変動監視観測 C 2006年10月24日の鳥島近海の地震による津波 C 2006年11月15日の千島列島の地震による津波の潮位グラフ
A1〜Cの分類は以下のとおりとなっています。 (A1)この間における全国の地震活動の報告と質疑 (A2)この間における全国の地殻変動の報告と質疑 (A3)地震活動,地殻変動以外の観測結果の報告と質疑 (A4)各地域についての詳細検討 (A5)トピックス (B) 話題提供 (C) 資料提出