地震予知連絡会の活動報告

第248回地震予知連絡会(2025年8月19日)議事概要

 令和7年8月19日(火)、国土地理院関東地方測量部において第248回地震予知連絡会がオンライン会議併用形式にて開催された。全国の地震活動、地殻変動等のモニタリングの報告が行われ、その後、重点検討課題として「地震予知・予測に関する概念の変化」に関する報告・議論が行われた。以下に、その概要について述べる。

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1.地震予知連絡会の今後の在り方の検討について

1.1 地殻活動の概況

 遠田会長より、地震予知連絡会の今後の在り方について検討することが提案され、運営検討部会において検討を行うことが承認された。(東北大学 遠田 晋次会長・資料1-2頁


2.地殻活動モニタリングに関する検討

2.1 地殻活動の概況

(1)全国の地震活動について

 日本とその周辺で2025年5月から7月までの3か月間に発生したM5.0以上の地震は52回であった。このうち日本国内で震度5弱以上を観測した地震は8回発生した。いずれもトカラ列島近海(小宝島付近)の地震活動である。このうち、7月3日に発生したM5.5の地震により最大震度6弱を観測した。(気象庁・資料4頁

(2)日本列島のひずみ変化

 GNSS連続観測によると、最近1年間の日本列島には、能登半島を中心に令和6年能登半島地震の余効変動の影響によるひずみが見られる。そのほか、北海道南部から東北地方にかけて、平成23年東北地方太平洋沖地震後の余効変動の影響によるひずみ、九州では2024年8月8日に発生した日向灘の地震、2025年1月13日に発生した日向灘の地震、2025年4月2日に発生した大隅半島東方沖の地震の影響によるひずみが見られる。また、山口県北部の地震活動に伴う地殻変動やトカラ列島近海の地震活動に伴うひずみが見られる。(国土地理院・資料5-6頁

2.2 プレート境界の固着状態とその変化

(1)南海トラフ・南西諸島海溝周辺

・日本周辺における浅部超低周波地震活動状況(2025年5月~7月)
 防災科研F-net記録等の波形相関を用いた解析により、種子島近海で超低周波地震活動を検出した。5月上旬、中旬に種子島の南東で活動が検出された後、数日の休止を挟んで種子島の東で活動は活発化し、活動域を北東方向に移動・拡大させたが、6月上旬には活動は終息した。(防災科学技術研究所・資料7頁

・西南日本の深部低周波微動・短期的スロースリップ活動状況(2025年5月~7月)
 短期的スロースリップイベントを伴う顕著な微動活動は、4月27日~5月14日に紀伊半島北部から南部で、6月9日~7月11日に四国東部から豊後水道において発生した。これら以外の主な微動活動として、7月5日~9日および7月13日~19日に東海地方での微動活動が検知された。(防災科学技術研究所・資料8頁
 GNSS連続観測により、2025年6月上旬~中旬に四国西部で発生した深部低周波地震(微動)に同期して、短期的ゆっくりすべりが発生した。2025年6月1日~2025年6月18日の期間では、すべり量の最大は約17mmと推定され、モーメントマグニチュードは6.0と求まった。(国土地理院・資料9頁)

・東海の非定常的な地殻変動(長期SSE)
 GNSS連続観測により、東海地域で2022年初頭から南東向きの非定常的な地殻変動が見られている。2022年1月1日~2025年7月14日の期間の解析では、渥美半島を中心にすべりが推定され、すべりの最大値は16cm、モーメントマグニチュードは6.7と求まった。(国土地理院・資料10-12頁

・紀伊半島南部の非定常な地殻変動(長期的SSE)
 GNSS連続観測により、紀伊半島南部で2020年初頭から南東向きの変動が見られる。2024年秋頃からいったん停滞したが、すさみ2、P串本などで2025年に入ってからわずかな東向きの変動が見られる。2020年1月1日~2025年7月10日の期間の解析では、紀伊半島南部にすべりが推定され、すべりの最大値は10cm、モーメントマグニチュードは6.3と求まった。(国土地理院・資料13-15頁

・四国中部の非定常的な地殻変動(長期的SSE)
 GNSS連続観測により、2019年春頃から南東向きの変動が見られるが、2024年秋頃から鈍化し、最近は停滞しているように見える。2019年1月1日~2025年7月55日の期間の解析では、期間内に発生している紀伊水道の長期的ゆっくりすべり、豊後水道の長期的ゆっくりすべりによるすべりとあわせ、四国中部にすべりが推定された。すべりの最大値は68cm、モーメントマグニチュードは6.6と求まった。(国土地理院・資料16-18頁

・日向灘の地震後の地殻変動
 日向灘沖南部では2024年8月8日M7.1の地震の発生以降、余効変動が減衰しながらも継続していた。2024年8月6日~9月2日では震央付近に大きなすべりが推定されているほか、繰り返し長期的ゆっくりすべりが発生している宮崎県沿岸部、種子島沖でもすべりが推定されている。その後、主に震源の海溝側と宮崎県沿岸部ですべりが継続していた。2025年1月13日の地震後は、震源を中心に同心円状にすべりが発生したほか、日向灘沿岸北部まで海岸沿いにすべりが広がった。2024年8月6日~2025年7月12日の期間では、すべりの最大値は57cm、モーメントマグニチュードは7.2であった。(国土地理院・資料19-23頁

2.3 その他

(1)「令和6年能登半島地震」(期間中の最大規模の地震:6月6日 M4.3)

 石川県能登地方では2020年12月から地震活動が活発になり、活動当初は比較的規模の小さな地震が継続する中、2022年6月にM5.4(最大震度6弱)、2023年5月にM6.5(最大震度6強)、2024年1月にM7.6(最大震度7)、2024年6月にM6.0(最大震度5強)、2024年11月にM6.6(最大震度5弱)の地震が発生した。M7.6の地震後の活動域では、地震の発生数は増減を繰り返しながら大局的には緩やかに減少してきているが、震度1以上を観測した地震が5月は8回、6月は7回、7月は6回発生するなど、活動は継続している。期間中の最大規模の地震は、6月6日13時48分に石川県西方沖の深さ10kmで発生したM4.3の地震(最大震度2)である。(気象庁・資料24-25頁

(2)釧路沖の地震(5月31日17時37分 M6.0、17時39分 M5.0)

 2025年5月31日17時37分に釧路沖の深さ20kmでM6.0の地震(最大震度4)が発生した。この地震の発震機構(CMT解)は北西-南東方向に圧力軸を持つ逆断層型である。また、同日17時39分にほぼ同じ場所でM5.0の地震が発生した。これらの地震は、陸のプレート内で発生した。(気象庁・資料26頁

(3)十勝沖の地震(6月2日 M6.1、及び6月3日 M5.2)

 2025年6月2日03時51分に十勝沖の深さ27kmでM6.1の地震(最大震度4)が発生した。この地震は、発震機構(CMT解)が西北西-東南東方向に圧力軸を持つ逆断層型である。また、6月3日22時18分にほぼ同じ場所でM5.2の地震(最大震度3)が発生した。これらの地震は、太平洋プレートと陸のプレートの境界で発生した。(気象庁・資料27頁
また、この地震に伴い、えりも1観測点で約0.4cm、えりも2観測点で0.4cm等、えりも岬周辺でごくわずかな地殻変動が観測された。(国土地理院・資料28-29頁

(4)根室半島南東沖の地震(6月19日 M6.0、6月22日 M6.0)

 2025年6月19日08時08分に根室半島南東沖の深さ25kmでM6.0の地震(最大震度4)が発生した。また、6月22日06時23分にほぼ同じ場所の深さ24kmでM6.0の地震(最大震度3)が発生した。これらの地震は、発震機構(CMT解)が北西-南東方向に圧力軸を持つ逆断層型で、太平洋プレートと陸のプレートの境界で発生した。(気象庁・資料30頁

(5)トカラ列島近海の地震活動(最大規模の地震:7月2日 M5.6)

 2025年6月21日05時頃からトカラ列島近海(小宝島付近)で地震活動が活発になっている。7月2日にM5.6の地震(最大震度5弱)、3日にM5.5の地震(最大震度6弱)が発生するなど、6月21日から7月31日までに震度1以上を観測した地震が2238回発生している。これらの地震は、陸のプレート内で発生した。今回の地震活動域の周辺は、1995年12月、2000年10月、2021年12月など、過去にも活発な地震活動が継続したことがある地域であり、これらの地震活動では、活発な期間と落ち着いた期間を繰り返しながら、数か月程度以上継続したこともあった。今回の一連の地震活動は、1995年以降に発生した地震活動の中で、最も地震回数が多い。(気象庁・資料31-39頁
 また、この地震活動に伴って、宝島観測点で約3.6cmの地殻変動が観測されたほか、2025年7月に新設したM悪石島観測点、C小宝島観測点では、観測が開始された7月13日から7月19日にかけて地殻変動が見られた。2025年7月2日15時26分の地震(M5.6,最大震度5弱)前後では、地震前には宝島が東北東に変動していたが,地震の後は南南西に変動していた。(国土地理院・資料40-46頁

(6)台湾付近の地震(5月5日 M6.0)

 2025年5月5日19時53分に台湾付近の深さ14kmでM6.0の地震(日本国内で震度1以上を観測した地点なし)が発生した。この地震の発震機構(CMT解)は、北西-南東方向に圧力軸を持つ逆断層型である。今回の地震の震央付近では、同日19時10分にもM5.4の地震が発生している。(気象庁・資料47頁

(7)台湾付近の地震(6月11日 M6.0)

 2025年6月11日20時00分に台湾付近の深さ38kmでM6.0の地震(日本国内で観測された最大の揺れは震度2)が発生した。この地震の発震機構(CMT解)は、西北西-東南東方向に圧力軸を持つ逆断層型である。(気象庁・資料48頁

(8)千島列島の地震(6月14日 M6.2)

 2025年6月14日03時35分に千島列島でM6.2の地震(日本国内で観測した最大の揺れは震度1)が発生した。(気象庁・資料49頁

(9)ロシア、カムチャツカ半島東方沖の地震(7月30日 Mw8.8)

 2025年7月30日08時24分(日本時間、以下同じ)にロシア、カムチャツカ半島東方沖でMw8.8の地震(Mwは気象庁によるモーメントマグニチュード)が発生した。この地震は、発震機構(気象庁によるCMT解)が北西-南東方向に圧力軸を持つ逆断層型で、太平洋プレートと北米プレートの境界で発生した。この地震により、岩手県の久慈港(国土交通省港湾局)で1.4mの津波を観測するなど、太平洋沿岸を中心に北海道から沖縄県までの広い範囲で津波を観測した。また、海外においても、ハワイのマウイ島で1.74mなどの津波を観測した。今回の地震の震央周辺では、M7.0以上の地震が時々発生しており、1952年11月5日にはM9.0(USGSによる)の地震が発生し、北海道から九州の太平洋沿岸を中心に津波を観測した。(気象庁・資料50-63頁
 この地震に伴い、礼文観測点で約0.6cm、稚内3観測点で0.6cm等、北海道北部でわずかな地殻変動が観測された。また、「だいち2号」のSAR干渉解析により、カムチャツカ半島南部では、最大1m程度の衛星から遠ざかる変動が見られ、1mを超える東向きの変動が見られた。(国土地理院・資料64-66頁


3.重点検討課題「地震予知・予測に関する概念の変化」についての検討

 地震予知・予測に関する概念の変化について、以下の報告があり議論が行われた。(コンビーナ:遠田 晋次会長、堀 高峰委員、束田 進也 様・資料68頁

◆地震予知・地震予測・地象予測 -我々は地震予知から地震予測に本当に頭が切り替わったのか?-

 「地震現象とは岩と岩が断層面を境に時空間的に多様性をもってずれる現象である」という現在の地震観に基づけば、断層がいつどこでずれ始めるか、どのようにずれ終わるかは、その時々で異なることになる。このことは1960年代に成立した点震源的な地震観に依る、「いつ」、「どこで」、「どのくらい」の地震が起きるかを予め知るという地震予知の概念はもはや時代遅れであることを意味する。天気予報という科学技術が天気図の変化からレーダー観測までシームレスに社会に受容されていることから見ると、科学技術をうまく使えば現状においても、強震動を励起しないまま断層面がゆっくりずれている場合や隣接地域で大規模な断層のずれがあった場合、あるいは地下深部から流体等が上昇する場合など、地下でいつもと違う現象が起きた結果、観測可能な地震活動や地殻変動が発生していれば、これを時間軸上で時々刻々力学的に監視し、「地震の発生をピタリと当てるのではなく」、次に起きそうなことを予測して、一旦地震波や津波等が生じた時には災害を予測する情報として知らせるまでを、よりシームレスに取り扱う概念を持ち得る。このことが地震予知という概念から地震予測、あるいは地象予測と呼ばれる概念への転換の本質と考える。(気象庁・束田 進也 様・資料70頁

◆天気予報の発展

 天気予報は大気物理学の理論的支柱により発展、その理論に基づく数値計算技術「数値予報」により進化した。計算機及び計算技術、観測技術などの発展により予測計算技術や初期値解析技術が進化し、今日の天気予報を支える技術となった。目先の降水に関する降水ナウキャストや降水短時間予報、2~3日先までの短期予報、1週間先までの週間予報、季節予報についてはそれぞれ別々な情報であり、出される情報の種類も異なるものの、気象の情報は目先から長期までシームレスな予測情報として発表・活用されている。(気象庁・佐藤 芳昭 様・資料71頁

◆地殻活動の時空間変化の可視化と予測 -長期予測と短期予測―

 地震の発生の原因となる現象であるプレート境界での固着・滑りの状況が、過去から現在にかけてどうなっているか、ある程度わかるようになってきている。そこで、議論のための話題提供として、長期予測と短期予測として何を示しうるか例示した。長期予測としては、断層固着・応力蓄積の分布や将来起こりうる地震シナリオを示すことができる。例えば、M7クラスの宮城県沖の地震の発生間隔が、東北地方太平洋沖地震後にはより短くなる可能性がシミュレーションから示唆されている。また、短期予測としては、いま何が起きているかを地震活動と地殻変動の時空間分布などで示すことができる。例えば、東北地方太平洋沖地震の余効滑りや固着状況について、小繰り返し地震の解析によってプレート境界での滑りの時空間変化を示すことができる。例えば能登半島での群発地震では、短期予測としての地震活動や地殻変動は示されていたが、その場所でどのような大地震が起こる可能性があるのかという長期予測と結び付けた議論が十分でなかった。今後は長期と短期を結び付けた議論を行うことで事前の備えにつなげることができる。(海洋研究開発機構・堀 高峰 委員・資料72頁

◆地震を駆動する変形過程の包括的理解

 スロー地震は、地震モーメントと継続時間の関係や活動の移動速度から、拡散過程が示唆され、自然界においては普遍的に存在する現象と考えられる。一方、通常の「速い地震」は高速な破壊移動を示し、地震モーメントと継続時間のダイアグラムでは局所的な分布をしていることから、自然界においては特殊な存在である可能性がある。地震を駆動する変形過程の包括的理解として、地下の広域変形が震源域周辺へと徐々に集中(局在)化し、大地震の発生直前に前震活動やスロースリップが同時に発生することで、断層面近傍に変形の集中(局在)化が進み、大地震の発生が促進されるモデルが提案されている。今後は、これらの活動の移動を迅速かつ高精度に把握することや、プレート境界における超低速変形を検出することが重要となる。(東京大学地震研究所・加藤 愛太郎 様・資料73頁


4.次回(第249回)重点検討課題「能登半島地震から2年~理解の現状と残された課題~」についての趣旨説明

 2024年1月1日に発生した「令和6年能登半島地震」から、まもなく2年が経過しようとしている。地震発生の翌月には、地震予知連絡会において本地震が重点検討課題として取り上げられ、その時点で得られていた観測結果や知見の整理・共有が行われた。その後も、地震活動や地殻変動、破壊過程、地形・地質、地下構造、さらには流体の関与に至るまで、さまざまな観測と研究が多角的に進められてきた。こうした研究成果が出揃いつつある今、新たに得られた知見と未解決の課題を整理・共有し、全体像を俯瞰することは、今後の研究を一層推進するうえで重要なステップとなる。
 令和6年能登半島地震は、その発生メカニズムに加え、本震前から続いていた活発な群発地震活動、顕著な地殻変動、流体の関与の可能性など、従来の理解では説明が困難な複雑な特徴を示している。こうした現象の背景には、能登半島地域に特有の地質構造やテクトニクスが深く関係している可能性があるが、その全貌は未だ明らかとは言い難い。これまでに得られた多くの研究成果を整理・統合し、時間的・空間的に広いスケールで能登半島地震の全体像を体系化し、理解を深化させることは、類似地域での地震発生予測や防災対策にとっても極めて重要である。
 そのため、能登半島地震を引き起こした根本原因に関する現時点での理解とその妥当性、長期にわたる群発地震活動を経てM7クラスの本震に至ったプロセス、活動した活断層セグメントの範囲や地下形状、それらの連動を支配する要因、同様の群発的な地震活動や地殻変動が今後発生した場合に、どのような知見が適用できるか、またどのようなことが予測・評価可能となるか、などについて議論する予定である。(コンビーナ:産業技術総合研究所・今西 和俊 委員・資料74頁


5.運営検討部会報告

 以降の重点検討課題名が選定され、
第251回は「AIを活用した地震調査研究(仮)」
第252回は「昭和南海地震から80年 ~南海トラフ地震に向けた調査観測研究の現状~(仮)」
第253回は「昭和南海地震から80年 ~南海トラフ地震予測の進展と課題~(仮)」
について、それぞれ議論を行う予定であることが報告された。(資料75頁・運営検討部会

各機関からの提出議題

  地殻活動モニタリングに関する検討 提出議題一覧(PDF:346KB)