地震予知連絡会の活動報告
第249回地震予知連絡会(2025年11月27日)議事概要
令和7年11月27日(木)、国土地理院関東地方測量部において第249回地震予知連絡会がオンライン会議併用形式にて開催された。全国の地震活動、地殻変動等のモニタリングについての報告が行われ、その後、重点検討課題として「能登半島地震から2年~理解の現状と残された課題~」に関する報告・議論が行われた。以下に、その概要について述べる。
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記者会見での説明映像(YouTube動画)
1.地殻活動モニタリングに関する検討
1.1 地殻活動の概況
(1)全国の地震活動について
日本とその周辺で2025年8月から10月までの3か月間に発生したM5.0以上の地震は32回であった。このうち日本国内で震度5弱以上を観測した地震は1回発生した。M5.0未満で震度5弱以上を観測した地震は1回であった。なお、期間外の11月9日に三陸沖でM6.9の地震(最大震度4)が発生した。(気象庁・資料2頁)
(2)日本列島のひずみ変化
GNSS連続観測によると、最近1年間の日本列島には、能登半島を中心に令和6年能登半島地震の余効変動の影響によるひずみが見られる。そのほか、北海道南部から東北地方にかけて平成23年東北地方太平洋沖地震後の余効変動の影響によるひずみ、九州では2024年8月8日に発生した日向灘の地震後の余効変動や2025年1月13日に発生した日向灘の地震、2025年4月2日に発生した大隅半島東方沖の地震の影響によるひずみが見られる。また、山口県北部の地震活動に伴う地殻変動やトカラ列島近海の地震活動に伴うひずみが見られる。(国土地理院・資料3-4頁)
1.2 プレート境界の固着状態とその変化
(1)日本海溝・千島海溝周辺
・根室半島南東沖の地震(10月25日 M5.8)
2025年10月25日01時40分に根室半島南東沖の深さ40kmでM5.8の地震(最大震度5弱)が発生した。また、2025年10月22日18時17分に釧路沖の深さ43kmでM5.1の地震(最大震度4)が発生した。いずれの地震も発震機構は北西-南東方向に圧力軸を持つ逆断層型で、太平洋プレートと陸のプレートの境界で発生した地震である。(気象庁・資料5頁)
・三陸沖の地震(11月9日 M6.9)
2025年11月9日17時03分に三陸沖でM6.9の地震(最大震度4)が発生した。この地震は、発震機構が西北西-東南東方向に圧力軸を持つ逆断層型で、太平洋プレートと陸のプレートの境界で発生した。なお、気象庁は、この地震に対して、同日17時12分に岩手県に津波注意報を発表した。その後、同日20時15分に解除した。
この地震の震央付近では、11月からまとまった地震活動が見られ、この地震の後も9日17時14分にM6.1、同日17時54分にM6.6、10日16時23分にM6.4の地震が発生するなど、活発な地震活動が継続している。(気象庁・資料6-8頁)
また、この地震活動に伴って、田老観測点及び宮古観測点で約0.7cmの変動など、主に岩手県沿岸部を中心にわずかな地殻変動が観測された。(国土地理院・資料9-10頁)
・北海道・東北沖の地震のサイズ分布(b値)の時空間変化
北海道・東北沖の地震の規模別頻度分布(b値)の時空間変化について、第244回(2024年8月29日)に「プレート境界の固着状態とその変化」で報告した内容の続報。 2003年十勝沖震源域の東側の、1952年十勝沖地震で滑りの大きかった場所付近のb値が、前回報告時同様、0.5程度の低い値を示している。また、1968年十勝沖地震ならびに1994年三陸はるか沖地震の震源域のb値も前回同様に低い値(0.6程度)を保っている。さらに、2025年11月9日にM6.9が発生した場所は、その南東側に隣接しており、b値も同程度に低い値を示していた(2020/1/1〜2025/6/22のデータ)。(海洋研究開発機構・資料11頁)
(2)南海トラフ・南西諸島海溝周辺
・西南日本の深部低周波微動・短期的スロースリップ活動状況(2025年8月~10月)
主な微動活動として、8月28日~31日に紀伊半島南部、9月2日~8日に紀伊半島北部、9月7日~14日に豊後水道、9月14日~20日及び9月29日~10月5日に四国東部での微動活動が、それぞれ検知された。(防災科学技術研究所・資料12頁)
・東海の非定常的な地殻変動(長期SSE)
GNSS連続観測により、東海地域で2022年初頭から南東向きの非定常的な地殻変動が見られている。2022年1月1日~2025年10月15日の期間の解析では、渥美半島を中心にすべりが推定され、すべりの最大値は18cm、モーメントマグニチュードは6.6と求まった。(国土地理院・資料13-16頁)
・紀伊半島南部の非定常的な地殻変動(長期的SSE)
GNSS連続観測により、紀伊半島南部で2020年初頭から南東向きの変動が見られる。2024年秋頃から停滞した後、収束している。2020年1月1日~2025年10月11日の期間の解析では、紀伊半島南部にすべりが推定され、すべりの最大値は11cm、モーメントマグニチュードは6.2と求まった。(国土地理院・資料17-19頁)
・四国中部の非定常的な地殻変動(長期的SSE)
GNSS連続観測により、2019年春頃から南東向きの変動が見られるが、2024年秋頃から鈍化した後、収束したと見られる。2019年1月1日~2025年9月6日の期間の解析では、期間内に発生している紀伊水道の長期的ゆっくりすべり、豊後水道の長期的ゆっくりすべりによるすべりとあわせ、四国中部にすべりが推定された。すべりの最大値は71cm、モーメントマグニチュードは6.6と求まった。(国土地理院・資料20-22頁)
・日向灘の地震後の地殻変動
日向灘沖南部では2024年8⽉8日M7.1の地震の発⽣以降、余効変動は継続しているが、減衰しており、最近ではわずかになっている。2024年8月6日~9月2日では震央付近に大きなすべりが推定されているほか、繰り返し長期的ゆっくりすべりが発生している宮崎県沿岸部、種子島沖でもすべりが推定されている。その後、主に震源の海溝側と宮崎県沿岸部ですべりが継続していた。2025年1月13日の地震後は、震源を中心に同心円状にすべりが発生したほか、日向灘沿岸北部まで海岸沿いにすべりが広がった。2024年8月6日~2025年10月8日の期間では、すべりの最大値は61cm、モーメントマグニチュードは7.2であった。(国土地理院・資料23-27頁)
1.3 その他
(1) トカラ列島近海の地震活動(諏訪瀬島付近)(最大規模の地震:9月17日 M4.8)
2025年7月からトカラ列島近海(諏訪之瀬島付近)では時々まとまった地震活動が見られ、震度5弱を観測した9月17日以降、地震活動が活発となった。7月1日から10月31日までに震度1以上を観測した地震は、7月は33回、8月は34回、9月は116回、10月は14回で計199回(震度5弱:1回、震度4:3回、震度3:26回、震度2:44回、震度1:125回)発生している。このうち最大規模の地震は、9月17日22時00分に発生したM4.8の地震(最大震度4)である。(気象庁・資料28-30頁)
また、この地震活動に伴って、諏訪之瀬島観測点で約0.9cmの地殻変動が観測された。(国土地理院・資料31-36頁)
3.重点検討課題「能登半島地震から2年~理解の現状と残された課題~」についての検討
能登半島地震に関する理解の現状と残された課題について、以下の報告があり議論が行われた。(コンビーナ:産業技術総合研究所・今西 和俊 委員・資料38頁)
◆令和6年能登半島地震の強震動と強震記録に基づく震源過程
令和6年能登半島地震(M7.6)では、主として奥能登地域で強震や津波による被害が生じた。全国展開された強震観測網により得られた記録によると、強い揺れに長時間見舞われたことに加え、人口が集まる小規模平野での地震動増幅が顕著に見られた。また、強震記録をもちいた震源過程推定により、破壊は珠洲市下から始まり、南西及び北東に破壊が伝播したことが分かった。このような複雑な破壊過程が長時間の揺れを生じさせた。(京都大学・岩田 知孝 様・資料40頁)
◆能登半島地震発生域における長期テクトニクスでの課題と断層掘削
日本海東縁地域では、伸長場から短縮場への応力の転換時期と持続性は未解明であり、能登半島においては過去数万年~10万年の応力場の変遷と断層活動の進化を明らかにすることが課題である。活断層・地質断層・岩脈などの構造データを用いた応力逆解析により現在の応力場の成立時期を解明するとともに、スリップテンデンシー解析を通じた既存断層の活動性や断層活動場の成熟度を評価することが地震の理解につながる。また、現在計画中の能登半島での陸上科学掘削計画(NEPTUNE計画)では、断層面近傍の流体圧・化学反応・摩擦特性の関連を解明し、将来的な地震予測の精度向上への貢献を目指している。(産業技術総合研究所・大坪 誠 様・資料41頁)
◆能登半島北東部の群発地震活動と流体
能登半島北東部では、2018年半ばから地震数が増加し、2020年末から活発化した。2023年にはM6.5の地震が発生し、さらに群発地震活動域を震源とするM7.6の地震が2024年に発生した。地震学的、測地学的、電磁気学的、地球化学的な研究結果から、一連の地震活動には地下深部から上昇した流体が寄与していることが判明している。現時点では、群発地震の原因となった流体が関与するような顕著な地殻変動や地震活動は見られず、地下の流体は平衡状態にあると考えられる。(金沢大学・平松 良浩 様・資料42頁)
◆測地学的に見た令和6年能登半島地震と先行現象
能登半島では、2020年12月頃から群発地震を伴う非定常的な地殻変動が観測されていた。地殻変動は、開口を伴うゆっくりすべりで説明でき、流体の関与が示唆されている。2024年能登半島地震では、既存のセグメントに沿ってすべりが発生した。西端は2007年に発生した地震の断層東端付近に位置する。余効変動は、粘弾性緩和と余効すべりが大きく寄与している。余効すべりは地震時すべりと相補的であった可能性がある。(国土地理院・宗包 浩志 委員・資料43頁)
◆冷たい沈み込み帯としての中部日本と能登半島下でのスラブ深部脱水
中部日本下は、流体供給が多く低温であり、火山フロント・火山帯の屈曲や能登半島下の深部脱水が見られる。能登半島下の深部脱水による流体供給は、今回の地震・地殻活動の誘因になったと考えられる。数百万年前からの圧縮場と流体供給が能登半島の形成(陸化)に寄与しており、今後も長期的に継続すると予測される。また、地下流体をとらえる新しい手法として「Geofluid Mapping」を開発した。これにより地下の流体種、量、連結度、圧力を定量的にとらえることが可能となり、地震・火山活動の中長期評価への貢献が期待される。(東京大学地震研究所・岩森 光 様・資料44頁)
4.次回(第250回)重点検討課題「熊本地震から10年 ー地震像と今後の課題ー」についての趣旨説明
平成28年(2016年)4月に起こった熊本地震は4月14日の気象庁マグニチュード(M)6.5(最大前震と呼ぶ)の地震から始まり、4月16日のM7.3の本震を最大として、規模の大きな地震が連続して起こり、大きな被害をもたらした。地震予知連絡会では第211回で重点検討課題として取り上げ、調査・観測結果が議論された。その後も活発な地震活動や余効変動が続いており、今後の活動にも注意すべき地震でもある。この地域で地震や地殻変動、地殻構造、活断層についての調査が進み、これらの成果が出そろいつつある現在、発災後10年を契機として、得られた知見を共有するとともに課題を整理して認識することが、今後の調査・研究にとって重要と考えられる。
平成28年(2016年)熊本地震は、活断層である日奈久断層・布田川断層において発生した地震である。この地域はかねてから中小地震の活動が活発であり、これらと熊本地震の関係が議論されてきた。また、本震の地震断層モデルは多くの研究から得られているが、これらと複雑な断層運動を引き起こした背景、2つの活断層が連動した原因など不明な点は多く残されている。さらに、現在の活発な余震活動や今も続く余効変動が今後の活動にどのように影響するかなどの問題点がある。これらについて議論を行い、理解を深めることが今後の地震発生予測にとって重要であると考えられる。
そのため、テクトニクスから見た熊本地震の背景や、地震活動から見た熊本地震の発生と今後の活動可能性、熊本地震とその後の地殻変動の時空間的特徴とその原因、地殻構造からみた熊本や内陸大地震発生の背景、活断層調査から見える熊本地震と今後の活動について報告を行い、熊本地震を引き起こした背景の理解と妥当性、熊本地震断層と活断層、火山の存在による地震時すべりとの関係、背景地震活動、地殻変動、活断層の情報が大地震発生に示唆を与えていたか、どのようなモニタリングが今後の活動予測へつなげられるかについて議論する予定である。(コンビーナ:九州大学・松本 聡 委員・資料45頁)
各機関からの提出議題
地殻活動モニタリングに関する検討 提出議題一覧(PDF:336KB)